歴史  0

アジアを変えた鉄

  宋代貿易沈没船積載鉄器類に関する研究 | 日本中世の鉄市場(1) | 日本中世の鉄市場(2) | 製鉄
月刊「金属」掲載論稿

中世アジア地域の鉄生産と流通の研究

宋代の南海貿易沈没船三艘が積載していた鉄器類が明らかになり、中国でこれに関する論文が発表された。
2018年3月末からの一年間、中華人民共和国社会科学院考古研究所に研究出張されていた福岡大学人文学部考古学研究室の桃崎祐輔教
授がこれを発掘され、日本で出土した中世の「棒状鉄素材」と沈船の「鉄条材」が極めて酷似している事に着目された。
桃崎教授は、日本の中世遺跡から出土する棒状鉄素材について集成分析され、2008年「中世棒状鉄素材に関する基礎的研究」と題し
た論文を『七隈史学』第10号に既に発表されていた。この発表から10年後のことである。

日本に帰国された桃崎教授は早速、『中国沈船資料に積載された「鉄条材」と日本中世の棒状鉄素材の比較研究』と題した論考を著さ
れた。
桃崎教授を研究代表者とするこの研究は、令和2〜4年度文部科学省・科学研究費助成事業(基盤研究C)として認定された。
本研究には、金属分析(自然科学)、古代中国の情報、中国語の翻訳、遺跡発掘などの専門家が必要な為、研究の賛同者を募られた。

令和3年(2021)8月、九州歴史資料館・小嶋篤主任技師他の計らいで、同館が所蔵する才田遺跡出土の棒状鉄素材の再確認が行われた。
金属分析も重要課題なので、福岡大学理学部・市川慎太郎助教授も同道された。
発掘時と違って、この時確認した棒状鉄素材は金属遺物保護の為、表面は厚い樹脂に覆われていた(写真下中央)。
この棒状鉄素材をどのように解析するかが今後の大きな課題となった。


2021年8月25日、九州歴史資料館に於ける才田遺跡出土の棒状鉄素材の再確認(左写真)と研究発表日程の会議(右写真) (筆者撮影)

棒状鉄素材確認後の打ち合わせで、令和4年の初頭、九州国立博物館にて研究発表を行う旨の基本方針が打ち出された。

2022年3月初頭、参加各研究者の論考集発行。第一回研究会開催時の予稿集となった。



研究会分担者
 研究代表者: 桃崎 祐輔 (福岡大学、人文学部考古学研究室教授)
 栗崎 敏 (福岡大学、理学部准教授)
 市川 慎太郎 (福岡大学、理学部助教)
 脇田 久伸 (佐賀大学、シンクロトロン光応用研究センター特命研究員)
 沼子 千弥 (千葉大学、大学院理学研究員准教授)
 石黒 ひさ子 (明治大学、研究・知財戦略機構(駿河台)研究推進員)
 上野 淳也 (別府大学、文学部教授)
 古澤 義久 (福岡大学、人文学部准教授)
 岡寺 良 (福岡県立アジア文化交流センター、その他部局等主任研究員)
 小嶋 篤 (九州歴史資料館、埋蔵文化財調査室主任技師)

論考目次
 岡寺 良「アジアを変えた鉄」
 桃崎 祐輔 「中世遺跡出土の棒状鉄素材は中国宋からの輸入鉄かー朝倉市才田遺跡・八重山出土品に注目してー」
 小嶋 篤 「棒状鉄製品の流通と鉄生産の変動」
 石黒 ひさ子 「南海1号から発見された鉄資料ー沈没船資料に見える鉄素材ー」
 沼子 千弥 「生物を介する環境での鉄の動態」
 市川 慎太郎・佐藤 かのん・脇田 久伸・栗崎 敏 「棒状鉄資料の蛍光X線分析における問題点ー資料表面の錆の影響ー」
 上野 淳也 「南蛮交易と金属の流通ー海のシルクロードと戦国大名ー」
 古澤 義久 「高麗島伝説と西沙群島の水中遺跡」
 孟 原召 「華光礁一号沈船と宋代南海貿易」
 丁 見祥 「南澳1号ーその位置・意味と時代」

九州国立博物館「太宰府学研究」事業及び科学研究費助成事業「日中文明遺物の産地探索を目指す中近世沈船・舶載遺物の考古学と自然科学の融合研究」シンポジューム開催

アジアを変えた鉄
ー太宰府鴻臚館の衰退と海商の時代ー

 場所; 九州国立博物館1階ミュージアムホール
 日時: 令和4年3月5日(土) 10:00〜16:00
 主催: 九州国立博物館・福岡県・福岡大学考古学研究室
             
華光礁一号沈船
積載鉄条材

開催趣旨

琉球諸島・日本列島の発掘調査で発見されていた謎の鉄製品「棒状鉄製品」。近年、「宋元代の沈没船」が相次いで発見され、貿易の
為の航海中に沈んだこれらの船に日本出土品と同一形態・同一法量の棒状鉄製品(鉄条)が大量に積まれていることが明らかとなり、本
品がアジアをまたぐ交易品として売買されていたことが実証されました。
加えて、東南アジアの研究では、宋元代と並行する13〜15世紀に、東北タイ・中部タイの在来鉄生産が衰退することが明らかにさ
れており、中国産鉄の流通が周辺諸国の産業にも影響を与えている状況も浮き彫りになってきました。
本シンポジュームは、「宋元代沈没船に積載された大量の鉄素材」や「琉球諸島・日本列島で出土した棒状鉄製品」を手がかりに、東
アジアの鉄流通の実態を探ります。日本列島の中・近世流通鉄素材は専ら「たたら製鉄」で生産され、「日本刀の素材はすべて国産と
みる定説も、アジア規模で流通する棒状鉄製品の存在が明らかになった今、新たな視点から検証していく必要があるでしょう。
また、宋元代と並行する日本列島では、古代より「太宰府鴻臚館」が担ってきた対外交易の役割が、東シナ海沿岸の「海商」へとダイ
ナミックに移り変わる時代とも重なっており、各地域の社会変化も注視されます。
上記のような複合的課題を明らかにするために、本シンポジュームは考古学と自然科学の融合研究を試み、新たなアジア史の構築を目
指します。


         基調講演する桃崎教授                          パネル討議

プログラム: 開会挨拶 河野 一隆 (九州国立博物館学芸部長)
      講演: 桃崎 祐輔 (福岡大学、人文学部考古学研究室教授)、小嶋 篤 (九州歴史資料館、埋蔵文化財調査室主任技師)
      石黒 ひさ子 (明治大学、研究・知財戦略機構(駿河台)研究推進員)、市川 慎太郎 (福岡大学、理学部助教)、
      上野 淳也 (別府大学、文学部教授)、古澤 義久 (福岡大学、人文学部准教授)
      展示紹介: 岡寺 良 (九州国立博物館展示課主任研究員)
      閉会総評: 脇田 久伸 (福岡大学、理学部教授)

併設展示会 「アジアを変えた鉄」
九州国立博物館4階文化交流展示室 遺跡出土の棒状鉄素材、鉄器、陶磁器の実物展示
期間: 令和4年1月18日〜3月13日


                       展示室の出土品を説明するパネル

その後、コロナ禍の為に対面研究会の開催ができなかったが、文科省科研費助成事業年度の終盤である令和5年3月になって第二回
対面研究会が実施された。

第二回対面研究会開催

日時: 令和5年3月11日、午後2時〜
場所: 福岡大学、理学部会議室

会議直前に1年間の研究進捗を反映した論考集が発行された。



研究分担者は前回と変わらず。

論考目次
 桃崎 祐輔 「中世遺跡出土の棒状鉄素材は中国宋からの輸入鉄かー朝倉市才田遺跡・八重山出土品に注目してー」
 小嶋 篤 ・岡寺 良「アジアを変えた鉄ー八重山諸島における歴史時代の到来ー」
 小嶋 篤 「棒状鉄製品の流通と鉄生産の変動」
 石黒 ひさ子 「南海1号から発見された鉄資料ー沈没船資料に見える鉄素材ー」
 沼子 千弥 「生物を介する環境での鉄の動態」
 市川 慎太郎・佐藤 かのん・栗崎 敏 「鉄製遺物の蛍光X線分析における錆の影響」
 市川 慎太郎・明山 未怜・栗崎 敏 「才田遺跡から出土した棒状鉄資料剥離片の蛍光X線分析」
 上野 淳也 「南蛮交易と金属の流通ー海のシルクロードと戦国大名ー」
 古澤 義久 「高麗島伝説と西沙群島の水中遺跡」
 内田 昌太郎 「唐津市呼小町内採集中国産小壺について」
 景山 千裕 「唐津市呼小町内海岸採集の中国産黒釉碗について」
 大村 紀征 「古代〜中世日本の鉄市場」
 孟 原召 「華光礁一号沈船と宋代南海貿易」
 丁 見祥 「南澳1号ーその位置・意味と時代」

 研究会参加者
 桃崎 祐輔 (福岡大学、人文学部考古学研究室教授)、小嶋 篤 (九州歴史資料館、埋蔵文化財調査室主任技師)、
 市川 慎太郎 (福岡大学、理学部助教)、脇田 久伸 (佐賀大学、シンクロトロン光応用研究センター特命研究員)
 上野 淳也 (別府大学、文学部教授)、沼子 千弥 (千葉大学、大学院理学研究員准教授)


○「アジアを変えた鉄」研究者の論稿が、金属・材料専門誌「月刊・金属」誌にて連載開始となりました。

   月刊「金属」2024年4月号 (3月28日発売)
  出版社:アグネ技術センター 発行間隔:月刊  発売日:毎月30日 サイズ:B5
  定価: 1,980円

 新連載: 第1回,桃ア祐輔(福岡大学人文学部教授)
     「アジアを変えた鉄−古代から中世の転換期に、
                   中国産鉄の流通が果たした役割」   

 
 月刊「金属」2024年5月号 (5月1日発売)
  出版社:アグネ技術センター 発行間隔:月刊  発売日:毎月30日 サイズ:B5
  定価: 1,980円

 新連載: 第2回,石黒ひさ子(明治大学 研究・知財戦略機構)
    「中国宋代の製鉄革命と交易の実態
           −中国南海沈船の相次ぐ発見と世界遺産下草埔冶鉄遺跡」


  
 月刊「金属」2024年6月号(5月29日発売)
  出版社:アグネ技術センター 発行間隔:月刊  発売日:毎月30日 サイズ:B5     
  定価: 1,980円

 新連載: 第3回,小嶋 篤(福岡県文化課、九州歴史資料館)
     「山林資源と鉄の歴史」 
 

    月刊「金属」2024年7月号(6月28日発売)
  出版社:アグネ技術センター 発行間隔:月刊  発売日:毎月30日 サイズ:B5      
  定価: 1,980円

 新連載: 第4回,大村 紀征(軍刀、刀剣研究家)
     「日本刀の素材は本当に玉鋼か?
          刀剣類の分析から素材鉄の変遷を考える」
 

    月刊「金属」2024年8月号(7月28日発売)
  出版社:アグネ技術センター 発行間隔:月刊  発売日:毎月30日 サイズ:B5
  定価: 1,980円

 新連載: 第5回,大重 優花(福岡大学人文学部考古学研究室)
     「中世の鉄の種類と生産・流通」                  
            

 
  月刊「金属」2024年9月号(8月31日発売)
  出版社:アグネ技術センター 発行間隔:月刊  発売日:毎月30日 サイズ:B5
  定価: 1,980円

 新連載: 第6回,主税 英コ琉球大学国際地域創造学部)
     「貝塚時代から琉球王国時代へ―沖縄の歴史に鉄が果たした役割」                  
            

  月刊「金属」2024年10月号(9月30日発売)
  出版社:アグネ技術センター 発行間隔:月刊  発売日:毎月30日 サイズ:B5
  定価: 1,980円

 新連載: 第7回,古澤 義久(福岡大学人文学部)
     沈没船から引き揚げられた銅銭からみたアジアの交流             
            

  
  月刊「金属」2024年10月号(9月31日発売)
  出版社:アグネ技術センター 発行間隔:月刊  発売日:毎月30日 サイズ:B5               
  定価: 1,980円

 新連載: 第8回,上野 淳也別府大学文学部)
     「大航海時代における中国産鉄の流通―南蛮交易の実像―」 

予定稿


月刊「金属」2024年12月号(11月28日発売予定)

  
第9回,脇田久伸(福岡大学理学部名誉教授)

  「鉄をめぐる文理融合研究の学術的意義−自然科学と歴史学・考古学の協業から期待される成果」

月刊「金属」2025年1月号(12月28日発売予定)

  第10回,栗崎敏・市川慎太郎(福岡大学理学部)

  「国産鉄か輸入鉄か―自然科学的方法による始発原料の産地分析」
  「鉄製品の錆化と変質−メタルが失われた鉄器の破片から、原料鉄の産地同定は可能か?」

月刊「金属」2025年2月号(2025年1月28日発売予定)

  第11回,沼子千弥(千葉大学大学院理学研究院)

  「海中生物の鉄同化作用と沈没船に積載された鉄遺物の変質」

月刊「金属」2025年3月号(2025年2月28日発売予定)

  第11回,岡寺良(前九州国立博物館→立命館大学)

  「鉄の流通と航路−日本列島近海の航路と城・霊山」

月刊「金属」2025年4月号(2025年3月28日発売予定)

  
第12回,大隣昭作(福岡大学工学部)

  「ドローンを使用した海岸遺跡・沈船遺跡の空中・水中写真測量について」


2023年4月10日より
ページのトップへ

 日本刀の地金  製鉄     
中世地鉄は銑鉄 →
← 中世日本の鉄市場(1)  中世日本の鉄市場(2) →