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「国工」 という刀匠最高位の称号を持つ柴田果が、「軍刀身の研究」という著書を昭和12年8月20 日、柴田 果作品頒布会より発行した。 これは、陸軍技術本部発行「軍事と技術」(昭和12年6月号)と憲兵司令部発行「憲友」(昭和12年8月 号)に掲載した論文を改めて一つに纏(まと)めたものである。 この時の柴田 果の肩書きは大日本刀匠協会常務理事となっている。 「軍刀身の研究」となっているが、軍刀身とは軍用に使われた刀身の意味である。 日本刀の原点と本質は「武器」である。 「軍用刀身の研究」とは、取りも直さず「日本刀身の研究」に他ならない。 日本刀に「美術刀」等という分野は元々存在する筈が無かった。 公家が朝儀用に佩(は)く太刀に僅かな例外をみる丈で、日本刀は全て「戦う為の刀」であった。 柴田 果が披瀝する「軍刀身」への見識は、従来の日本刀の常識とは異なる興味深い内容である。 陸軍技術本部發行「軍事と技術」(昭和12年6月號)、憲兵司令部發行「憲友」(昭和12年8月號) より轉載 |
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そして其組合せ法のうち最も多いのは甲伏(かぶとぶせ)、捲(まく)り等であります。 此二種の組合せは共に第二圖の如き斷面となるものであります。 更に四方詰、三枚鍛、折返三枚鍛等がありますが此等は何れも刀匠が、鋼材及労力節約の爲の簡便方法であり まして、軍刀として完全なりと申されないのであります。 古來の刀身斷面圖を見て、此等の組合せによるものと思はれるものゝ多くは、硬軟の鋼は十中八九までは不平 均に渡ってあります。 此等の組合せは理想としては最もよいけれども、これが實際に當っては非常な刀匠が、非常な手數をかけぬ限 り平均に配られることはないので、この硬軟の鋼配置が不平均な結果として、刀身の各部分に強弱の箇所の出 来ることは免るゝことの出来ないものであると考へられます。 餘談になりますが、古來硬軟鋼の配置に當って、現在わかってゐるもので比較的完全なりと見るべきものは、 第三圖關傳の組合せと第四圖相州傳の或一種の組合せ法とのみであると思われます。 筆者注 「四方詰、三枚鍛、折返三枚鍛等は、何れも刀匠が鋼材及び労力節約の為の簡便方法であって、「軍刀」とし ては適当ではない。 この組合せは理想としては良いが、硬軟の鋼を均一に配分するには非凡な刀匠が非常な手間を掛けないと実現 は不可能である。 古来のこの方式の刀身断面を見ると10中8〜9まで硬軟鋼の配分が不均質になっていて、刀身各部に強弱が生じて 戦える刀にはならない。現在比較的完全と言えるものは関伝の組合わせと相州伝のある一種の組合わせしかな い」と柴田刀匠は断じている。 |
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關傳は是まで、軟鐵を中に入れ、それに棟金を添へた一種の捲り鍛である様に傳へられて居ります。 勿論、此種の組合せも多いことゝ思ひますが、私の見るところでは、研ぎ減りの爲に中に入れてある軟鐵が 刀身に現れて來たものはあまりない様であります。 又私が折って見た二三本のものも同様であります。 殊に試刀して見ると、薄いものであっても割合に弾力がある、これによって見るに恐らく關傳のものは、棟金 として軟鐵を添へたのみのものが相當多いではなかろうかと思はれます。 果して然らばこれはいくら研減らしても硬軟兩鋼の割合變化を來さないもので、實用刀として適當であると言 へると思ふのであります。 筆者注 柴田刀匠は「関伝はこれまで甲伏せ、又は、捲り鍛えと言われて来た。勿論この様な鍛えも多いと思うが、 |
栗原昭秀先生
鍛法諸流秘傳による
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次に第四圖に示した相州傳の或る種の組合せでありますが、これも關傳同様いくら研減らしても硬軟鋼の割合 は同じでありますので、これ亦實用刀として適して居ると思へるのであります。 以上の外のものは、多くは研がるゝ度毎に硬鋼のみが減る様になってゐますので、何時とはなしに軟鋼の割合 が多くなり、所謂(いわゆる)心金が現はれ戰鬪力を失ふて終(しま)ふのであります。 此等の意味から今回の『笹掻鍛』は、いくら研減っても硬軟鋼の割合が同じであると共に、この二種の鋼が程 よく組合はされてゐる、最も完全にして理想的な方法でありと信ぜられるのであります。 筆者注 「関伝の第三図、相州伝の第四図の硬軟鋼の組み合わせ以外は、研ぎ直される毎に硬鋼が減って軟鋼の割合が 多くなり、所謂心金が現れて戦闘力を失ってしまう。 その点で、「自分が考案した笹掻(ささがき)鍛えは理想的な刀身構造である」と柴田刀匠は主張している。 こうした刀身構造に就いては、人間国宝永山光幹研師が話された「古名刀の時代には意外に稚拙な作り方が 行われていた」 (「日本刀の常識を問う」参照) という見解と一致している。 |
(1)硬軟鋼を接合す (2)矢の方向に打ち平める |
(3)(4)(5) 折返しは3回まで・・・ 硬鋼部を刃とし 軟鋼部を棟とす |
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世界に於ける鐵の權威 本多東北帝国大學總長(右)と 柴田 果(左)氏 昭和11年10日17東北帝国大學 金属工學科教室にて 柴田 果氏鍛刀研究發表の時撮影 |
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