将校用軍刀の研究(1) 序章と第一報0

将 校 用 軍 刀 の 研 究

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新 た な 日 本 刀 へ の 挑 戦


 国軍は草創期、西洋装備を基本として、軍刀剣も西洋地鉄で造られた。やがて将校達は軍刀に日本刀を選択するようになった。
 東京砲兵工廠の村田経芳少将は、この古来の日本刀の性能と価格に、軍刀の観点から最初にメスを入れた先覚者だった。
 日清・日露の戦役、シベリア出兵、第一次世界大戦を経て、満州事変の勃発に至り、将校用市場在庫の古作刀は極端に減少した。
 満州事変以降、軍刀需要が急増して将校用の軍刀不足は深刻となった。
 明治の廃刀令で刀匠は潰滅し、大正にはタタラ製鉄の火も消えた。日本刀の作刀復活は期待出来ない状況だった。
 日本刀不足に便乗して、悪徳業者に依る粗悪刀が市場に出回り始めた。
 こうした状況に鑑み、軍や民間企業に於いて良質な軍刀の供給が喫緊の課題となった。
 数次の戦場での経験から、古来日本刀の弱点が浮かび上がった。
 技術者達は、この日本刀の短所を研究し、新たな日本刀の開発に挑戦した。

古来日本刀の主たる短所
(武器の本質と装備面からみた欠点)

1.性能品質のバラツキ
  古来の造刀法は、刀匠の力量によって利刀から鈍刀・駄刀まで性能品質に大きなバラツキが出る宿命を負っていた。
  刀匠の力量のみに依存する造刀法で、一定水準の性能を確保する事は大変困難であった。これは和鋼の扱い難さを示す。
  小倉陸軍造兵廠が行った研究過程で、優れた刀匠が造った陸軍刀剣鋼の素延べ刀は、玉鋼・二枚構造の本鍛錬刀の一部を強靱さ
  で上回った。日本刀という名称で統一される共通の性能・若しくは品質といえるものは無い。日本刀の性能は玉石混淆だった。

2.短い茎: 古来日本刀の茎は磨上げもあり、概して異様に短い。これが柄損傷の最大原因となった。
      短い茎の日本刀は戦闘に使えない。

3.低温脆性(ぜいせい): フェライト鋼などの体心立方構造の金属は-20℃位から原子面が急激に破断を引き起こす。
      これを低温脆性という。面心立方構造のNi, Al, Cuやオーステナイト系ステンレス鋼には起こらない。
      炭素鋼の日本刀は、満州や北方寒冷地で脆(もろ)さを露呈した。

4.錆び: 普通鋼の日本刀は、Ni, Cr, Cuなどを含まない為、錆に極めて弱い。
      劣悪な使用環境での煩雑な防錆保守は実用性を損ねた。

5.棟打ち脆性: 特殊な工夫を凝らしたもの以外、日本刀は棟打ちで破損、折損する。実戦では致命的な欠陥となった。

6.造刀の非能率と価格高: 造刀は特殊技能を有する刀匠に頼る外なく、且つ、その造刀能率は極めて悪い。
      結果として高価となり下級将校に負担を強いた。

7.和鋼生産の非効率と材料高: タタラ製鉄は特殊技能者に限られ、製鉄効率が極めて悪い(一代毎の炉の破壊など)
      玉鋼は鍛錬が不可欠で、価格も高い。

 新たな日本刀への挑戦は、刀匠への依存を避ける為の鋼材や造刀法を開発するか、或は刀匠の技能の平均化を図るかしか途はなか
った。刀匠の技能の平均化は至難の技であった。そうした流れの中で、これら日本刀の弱点の克服を目指そうとした。
 千年を超える日本刀の歴史の中で、初めて日本刀を科学的に見直す一大画期であった。研究には大きく二つの流れがあった。

  1.鋼材の抜本的な見直しと新鋼材の開発 (炭素鋼=和鋼は、粘性、錆、低温脆性などの観点から理想の刀材とは言えない)
  2.古来造刀法の見直しと新造刀法の開発 (造刀効率の向上、品質の均質化)

 開発者に依って主たる開発目的を各々異にしているが、均質な品質及び近代科学を導入した量産性の確保は共通していた。
 多くの挑戦があったが、主だったものに以下のものが挙げられる。
1
新 日 本 刀 へ の 挑 戦
(均質な性能確保と量産性は共通)
  開 発 主 体 初期目的 名    称 応 用・目 的 鋼  材  名 造刀法 備  考
砲兵工廠・造兵廠 軍刀剣 下士刀・銃剣 新刀剣鋼・廉価 陸軍刀剣鋼 機械化 一枚鍛え
東京砲兵工廠 軍刀 村田刀 強靱・廉価 スウェーデン鋼 + 和鋼 手・機械 一枚鍛え
群水電化工業 純鉄の自給 群水刀 新刀剣鋼 群水鋼 手・機械 一枚鍛え
南満州鉄道 純鉄の自給 興亜一心刀 新造刀法・耐寒 日下純鉄 機械化 二枚鍛え
東北帝大金属材料研究所 軍刀 振武刀 東洋刃物 耐寒刀剣鋼 タハード鋼・日本特殊綱 機械化 一枚鍛え
岐阜県立金属試験場 軍刀 古式半鍛錬刀 新造刀法・廉価 出雲鋼・坩堝鋼 機械化 二枚鍛え?
小倉陸軍造兵廠 軍刀 造兵刀 新造刀法・廉価 玉鋼・陸軍刀剣鋼 機械化 一枚鍛え
製鋼会社 特殊鋼 耐錆(不銹)鋼刀 耐錆 ステンレス・安来鋼銀系 手・機械 一枚鍛え
アンドリユー社 河合規格 玉鋼同等 俗称: 新村田刀 強靱・廉価 東郷ハガネ 手・機械 一枚鍛え
                                           陸軍受命刀匠が造るものは「制式現代鍛錬刀」と呼称

 陸軍省兵器局は、昭和13年9月16日、陸普第五六六八號にて造兵廠長官に将校准士官軍装用軍刀の製造命令を通達した。
 これを受けて小倉陸軍造兵廠は新軍刀の研究を開始した。
 鋼材は玉鋼、刀剣鋼、安来白紙3号、水素還元鉄・電解鉄等の純鉄を比較し、量産性の観点から機械鍛造と人力鍛造の得失、玉鋼代用鋼の可否なども検討する大がかりな研究だった。

 本研究は昭和17〜8年まで継続され、「造兵彙報」(陸軍兵器本部)に掲載された。新々刀の実態を知る上で大変貴重な資料である。
 以下にこの研究試験内容をご紹介するが、先ず、研究主題の範囲と限界を明確にしておく必要がある。
2

小倉陸軍造兵廠の研究内容の範囲と限界

 1.新々刀に準拠した日本刀の製造法を改良し、性能の安定した廉価な量産軍刀(後の制式現代鍛錬刀)の供給を目的とした。
 2.嘱託だった九州帝大の谷村教授は冶金学者であるが、本阿弥光遜との親交が深く、本来美術刀愛好者だったと戦後に述べてい
   る。造兵廠の技術者も多分にこの影響を受けているようで、美術刀への偏執が、判決の誤りとなって随所に現れている。
 3.鋼材や造り込みの日本刀の認識は新々刀を前提としている。刀剣界はそれを常識と思っていたので止むを得ない面もある。
 4.古刀や他の研究者が開発した優れた新鋼材や造刀法が比較研究の対象になっていない。研究の主眼はあくまで新々刀の玉鋼に
   依る造刀法の改善であって、比較されたのは陸軍刀剣鋼と一部の洋鋼(純鉄)及びその卸し鉄に限定されている。

 新々刀の実態を知る上で興味ある内容であるが、研究の前提を勘案して読まないと鋼材・造り込み等の面で偏った日本刀の認識を
する虞(おそ)れが有る為に敢えて範囲と限界を冒頭で明らかにした。

 尚、基本的には要点を記す事とし、極力旧仮名遣いの原文を尊重した。当時の雰囲気を保持する為である。
 ( )内は原則として筆者の注釈とする。
3

將校用軍刀製作に關する研究・第一報

(昭和14年)

                造兵廠小倉工廠 砲兵少佐・早川良三、技師・太田宰治、工兵准尉・金山光郎、嘱託・谷村 熈

1.目  的

 優良にして真に信頼し得る軍刀を廉価且つ迅速多量に製造し得る方法に就き研究せんとす。

2.判  決

 試製刀に就き、切れ味試験、落下試験、硬試験を実施せる結果、徒歩本分下級指揮官用として適当と認むる刀の経始(物事を計って定める)次ぎの如し。

 1.恰   好  鎬造りにして樋を掻かず華表(かひょう=鳥居)反りとして外観は寸法形状に均衡あり上品なる形姿を有するもの。
 2.材   料  優良なる玉鋼。
 3.刃   文  刃文の深さは中程度とし、刃縁匂深く小沸絡むもの。
 4.鍛錬及硬軟組織組合わせ 各刀工の最も練達せる作業を行はしめ切れ味良好にして特に平打及び棟打に対して強靱なる性質を
          有し容易に切断せざるもの
 5.長   さ   606〜697p(2尺〜2尺3寸) 身長に依りて適当なる寸法を選定す。但し最も適当なる長さは柄を握りて立ちた
          る際に鋩子が土に接触せざる程度とす。
 6.反   り  16.9o (5分5厘)
 7.身   幅  30.3o (1寸)
 8.重   ね   6o (2分、区に於いて) 4.5o (1分5厘、横手に於いて)
 9.鎬筋の重ね  7o (2分3厘、区に於いて) 5.5o (1分8厘、横手に於いて)
10.鋩子の長さ  36.5o (1寸2分)
11.中心の長さ  242o (8寸)
12.地肉の半径  75o
13.標 準 重 量   750〜825g (200〜320匁)

 乗馬本分下級指揮官用としては以上の経始より長さをも30〜60o(1〜2寸)長くし、身幅を3〜4.5o(1分〜1分5厘)狭くしたるものを適当と認む。

3.実 施 要 領

1.岐阜県関町、福岡県小倉市、山口県岩国市の某刀工をして玉鋼(1振)及刀剣鋼(2振)を使用し各刀工の最も得意とする鍛錬方法及
  刃文を以て造刀せしめ、切れ味を試験し品位を定む。
2.外装は努めて現制式の外観を尊重し、これに実戦より得たる体験を十分に斟酌して改良設計したる案に依り岐阜県関町刃物会社
  をして試製せしむ。
3.刀の多量生産に当たりては先ず手の代りに空気槌を利用する等、人力の代用に機械力を利用し能率増進に資せんとす。

4.経 過 及 成 績

 刀は現地修理班の報告に依り作製せる購買明細書(稿末参照)に依りて刀工7名に発注試製せしめ切味試験、落下試験、及硬試験を
実施せり。第1表及第1図は試験刀の形状寸法を示すものなり。     ※注: 第1図の刀工C、刀工F、刀工E、刀工Dの刀身図は省略した

第1表 試作刀の形状寸法

區分 刀工 材料 鍛錬 地肌 刃文 鋩子の
返 り
身幅
(o)
長さ
(o)
重ね
(o)
重量
(gr)






A
安 来
白紙3號
鍛伸 無地 五の目尖
矢筈交り
匂出来
大 丸
匂出来
28.8
(95厘)
675
(232分)
6
(2分)
855
(228匁)
B
刀劍鋼 鍛伸 無地 三本杉
匂出来
小 丸
匂出来
33.2
(110厘)
670
(221分)
6
(2分)
1028
(274匁)
C
鍛伸 無地 中直刃
匂小沸
小 丸
匂小沸
28.8
(95厘)
667
(220分)
6
(2分)
875
(239匁)








D
玉 鋼 四方詰 地板目
鎬柾目
三本杉
匂出来
中 丸
匂出来
33.2
(110厘)
682
(225分)
6.7
(2.3分)
1012
(270匁)
E
五の目乱
沸稍々荒
自 蔵
匂小沸
30.3
(100厘)
652
(215分)
7.9
(2.6分)
950
(253匁)
F
マクリ 板柾
 交じり 
中直刃
匂小沸
中 丸
匂小沸
33.2
(110厘)
673
(222分)
6
(2部)
875
(233匁)
C
四方詰 柾目 中直刃
匂小沸
中 丸
匂小沸
31.8
(105厘)
670
(221分)
6
(2部)
882
(235匁)
G
小乱れ
匂沸叢
乱れ込
沸稍々荒
33.2
(110厘)
682
(225分)
7
(2.3分)
930
(245匁)
                                    
  筆者注: 鍛伸刀=素延べ刀、本鍛刀=本鍛錬刀。7名の刀工に刀剣鋼14振と玉鋼7振の合計21振の試製刀を造らせているが
       表には8振の記載しかない
4

1.切 味 試 験


 従来の切味試験に於ては巻藁のみを斬切し切味を判定するが如き不徹底なる試験方法を普(あまね)く用いたりしも、本鍛刀が鍛伸刀に勝る真価は斯くの如き試験のみに依りては絶対に判定し得ざる處にして、更に負担の大なる試験を施すことに依りて優劣を判別し得るものなり。故に本試験に於ては堅硬物試験を実施せり。

A.試験方法

 本試験に於ては次の3種の試験を実施せり。
 イ.軟物に対する試験    ロ.中硬物に対する試験    ハ.堅硬物に対する試験
 試験実施に当りては試料は第2図に示す如き試斬り台に載せ、刀には試斬柄を嵌(は)め大上段
 に振り冠(かむ)り全擘力(はくりょく)を集中し、物打ちにて試料に直角に斬切せり。
 斬切の際には引き又は押しの技巧は弄(ろう)せず。

B.試験成績

 イ.軟物に対する試験は第3図(A)に示す鹿毛の布団を試料とせり。試斬り台上に試料5枚を
   重ね斬切したるに何れも3〜4枚を切断し得たり。
   刀の地及刃に対しては些少の変化をも認めず。

 ロ.中硬物に対する試験は第3図(B)に示す青竹入り巻藁を試料とせり。藁を水に浸し径約
   3pの青竹を中に囲み藁を外周に置き縄にて縛り径約12pの巻藁とし、台上に載せて
   斬切したるに何れも8〜9割を斬切することを得。刀の地及刃には些少の変化をも認め
   得ず。

 ハ.堅硬物に対する試験は第3図(C)に示す極軟鋼線(5oφ)及極軟鋼板(3o厚)を試料とせ
   り。本鍛刀にありては軟鋼線を切断し得たる場合は第4図(A)の如き削れ欠けを呈し、
   切断し得ざる場合、試料は湾曲し、焼刃深さの約1/4程度の第4図(B)の如きソゲ欠又
   は小欠を呈したるも、鍛伸刀は切断し得たるものなく焼刃深さの約1/2〜1/3程度の
   大欠を呈したり。
   極軟鋼板に対しては試料に刃部斬撃の痕跡及湾曲を認むるのみにして切断し得たる刀な
   し。
   本試験に於て、本鍛刀は比較的長き(長さ約1〜1.5p)小欠(深さ約1o)を呈し、鍛伸刀
   は比較的長き(長さ約1〜1.5p)大欠(深さ約2.5o)を呈したり。

 第二表は試験結果を示す。



第2表 切 味 試 験 成 績





材料
軟物
試験
硬物
試験
堅 硬 物 試 験
摘    要
軟 鋼 線 軟 鋼 板
切 味 損 傷 切 味 損 傷


A  安来鋼 
1/3斬込 大 欠 不 可 大 欠  白紙3號
B
 刀劍鋼
C
   〃





D
 玉 鋼 切 斷 削れ欠
E
   〃 1/2斬込 小 欠  軟鋼線湾曲105
F
   〃  軟鋼線湾曲105°
C
   〃 切 斷 ソゲ欠
G
   〃 1/2斬込 小 欠  軟鋼線湾曲140°

筆者注) 8刀中、軟鋼線が切断されたのは2刀のみ。軟鋼板は、どの刀も切断不能だった。満鉄刀、東郷鋼の羽山円真刀に比べて、
     強靱性で遙かに劣っていることが解る。


C.刃コボレに就いて

  本鍛刀の刃鉄は8〜10回の折返し鍛錬を施したるものなるを以て数百枚(鍛錬回数8の場合は2の8乗=256
  枚、10回の場合は2の10乗=1,024枚)の薄き刃鉄が鍛接されたる構造を有す。
  故に堅硬物試験に際し、刃が試料に対して直角に斬込みたる場合、刃部の両側は斬撃の衝撃荷重を等分に負担
  することとなり、刃鉄と試料との間の抵抗に依り剪断(せんだん)作用を惹起(じゃっき)し、表面の薄き刃鉄は剥落(はく
   らく)
するに至る。
  故に刃鉄が削れ欠を生じたる場合は斬撃が最も正確に行われたる場合にして、試料に対して稍々(やや)傾斜ある
  場合には一側に於て大部分の加重を負担し、ソゲ欠を生じる。
  小欠を生じたる場合は傾斜大なるか又は刃鉄に欠点ある場合なり。
  鍛伸刀は材料を鍛伸し刀の形状に成形し刃部に焼入したるものなるを以て、刃部が衝撃荷重に脆弱なることは
  論を俟(ま)たざる處なり。
  故に、正確に斬撃を為すも堅硬物に対しては大欠を生ずるは怪訝(けげん= 疑い)の余地なき處なり。

 D.試験成績の考察

  軟物及中硬物試験に於ては鍛伸刀及び本鍛刀の間に特記すべき優劣を認むるを得ず。
  軟物及中硬物試験にて見事なる切味を現すには第5図(B)に示す如く地及刃肉を平に研磨することに依りて
  楔(くさび)の原理に依り容易に目的を達することを得。
  然れども、斯くの如き肉置に於ては堅硬なる品物の斬撃に於て必ず刃の大欠 を来すものなり。  
  故に第5図(A)に示す如く刃に肉を有せしめ所謂(いわゆる)(はまぐり)刃の肉置とするを要す。
  然れども、この2種の肉置は相互に相反する性質を有するを以て、両者の中間に位する適当なる肉取りを採用すること肝要な
  り。古の名工の鍛錬せる名刀と雖(いえど)も、堅硬なる試料を無瑕疵(か し)にて切断するは、斬手の熟練せる技量及精神の集中統一
  が融合したる所謂一心不乱の心境に於て初めて能(よ)く為し得る處にして、素人にては各刀に対し同一なる条件の下に斬撃し公
  平なる成果を期待し得るものにあらず。
  故に堅硬物試験結果に依りて切味の序列を附するは正鵠(せいこく)を失する虞(おそれ)なしとせざるも、本鍛刀と鍛伸刀とは試験に依
  りて生ずる損傷の状況に異なる傾向を認むることを得たり。
  本鍛刀は試験の結果削れ欠、ソゲ欠及小欠を呈す。削れ欠及ソゲ欠はその儘にても実用に供し得るを以て、必ずしも再研磨を必
  要とせざるも、小欠を生ずれば再研磨せざれば実用に供し得ず。即ち本鍛刀は損傷を生ずるも再研磨に依り実用に供し得。
  然るに、鍛伸刀に於ては大欠を生じ、再研磨の価値無きか又は再び実用に供せしむる為には研磨に多大な労費を要し刀姿を失墜
  せしむるに至る。
  これを要するに巻藁程度の切味試験に依りては本鍛刀及鍛伸刀の優劣は判定し得ざれども、堅硬物試験に依りて本鍛刀が遙かに
  優秀なることを判決することを得たり。
  切味試験成績より切味の序列を附せば次項の如し。

   1.刀工D  2.刀工C(玉鋼)  3.刀工F  4.刀工E  5.刀工G  6.刀工B(刀剣鋼)  7.刀工C(刀剣鋼)
   8.刀工A(安来白紙3號)

  堅硬物試験成績依り判決し得たる事項次の如し。

 イ.厚さ3oの軟鋼板は尋常なる力量に依りては切断し得ざることを確認せり。故に鍔鋼製の場合はその厚さを3oとせば可なり。
 ロ.軟鋼線切断の結果、本鍛刀を以てせば、径5o以下の鉄条網は大なる刃コボレを生ずることなく切断し得ることを知り得た
   り。
5

2.落 下 試 験


 日本刀の世界に冠絶(かんぜつ)する所以(ゆえん)は、 単に刀姿、地肌及焼刃の美麗に存在するのみに非ず。
 硬軟の組織に依り形成されおる處に大なる所以の存在するものなり。
 同一鋼を鍛錬せるものより硬軟の組織より成れる刀材の方が落下(試験)に対して強靱なる性能を有するは論を俟(ま)たざる處なり。
 敵陣に突入し白兵戦の真っ最中に於ては敵の小銃の台尻及青龍刀などの衝撃を軍刀の平及棟にて受止めるが如き場合は予想し得る
 處にして、斯(か)くの如き場合に軍刀切断せば戦死の止むなきに至る。
 故に猛烈なる衝撃を蒙(こうむ)る場合に於て、若干湾曲するも切断せざる刀身を希望するものなり。
 上述の理由に依り本鍛刀は落下(試験)に対して強靱なる性能を具備すべきことは絶対必要条件にして、本試験に於ては本鍛刀を廃
 品となす覚悟を以て平打ち及棟打ちの落下試験を実行せり。


A.試験方法

  第6図に示す落下試験機上に刀を載せ重量12sの重錘(じゅうすい)を落下せしむ。
  平打ち試験にありては物打の稍々上方に落下高285oより開始し、50o宛揄チし、刀が切断する
  か又は湾曲して試験不可能に至るまで落下せしむ。平打試験終了後棟打試験を実施す。
  棟打試験にありては物打附近の棟に落下高60oより開始し、50o宛揄チし、刀が切断するか又は
  切断せざるも大なる刃切れを生ずるに至る迄落下せしむ。
  上述の如く重錘を落下せしめ破壊せる場合の落下高を求め、この数値に依り落下に対する強さを
  比較せり。
  刀の各部寸法には多少の差異あるも購買明細書に示す寸法に依りて製作せるものなるを以て切断
  面の大きさは同一と見做(みな)し得。(次ページへ続く)

  枕間163o、
  枕の高さ52o


6

将校用軍刀の研究目次 


    第一報の2 (試験成績と第二報)  第三報 (日本刀鍛錬)  第三報の続き (機械鍛錬と臂力鍛錬の比較)

    第四報 (日本刀折損及湾曲の原因 附:鋼の組織)
   第五報 (優良なる現代刀匠の日本刀) 

    第六報(日本刀瑕疵の原因と対策) 第6報準備中
 



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