将校用軍刀の研究(3) 第三報0

将 校 用 軍 刀 の 研 究 (3)

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將校用軍刀製作に關する研究・第三報

(昭和15年 日本刀の鍛錬)

  小倉陸軍造兵廠第一製造所 陸軍少佐・早川良三、技師・太田宰治、嘱託・谷村熈、兵技准尉・金山光郎、技手・久保田重穂

1.目  的

 優良にして真に信頼し得る軍刀を廉価且つ迅速多量に製造し得る方法に就き研究せんとす。

2.判  決

1.玉鋼及水素還元鉄の手卸し人力鍛錬による刀身は切味良好且刃打平打に対して強靱にして実用に適するものと認む。
2.水素還元鉄及電解鉄の機械卸し機械力鍛錬による刀身は切味良好なるも、卸しの際、炭素吸炭量過多なりしため強靱性に欠くる
  處あり。将来研究改善に よりて実用に適するに到るものと認む。   水素還元鉄刀の落下試練成績(後述)からこの判定は一部間違い
3.玉鋼の機械力鍛錬は実施しあらざるも本研究試験の成果より考察するに十分可能性あり。且つ経済的なるものと認む。
4.本研究試験の結果より原価計算を実施することを得て上司の希望に近き合理的単価を決定し刀身の注文を完了せり。
5.尚、技術的細部に亘り判定し得ること次の如し。

 A.従来は白銑に対しては折返し鍛錬不可能なりとせられありしも本研究試験によるに不純成分極めて少き純粋なる原料にありて
   は、炭素量多くして一部に白銑組織を有するも折返し鍛錬可能なり。
 B.ヘシ鉄は玉鋼中の介在物を除去せんがために行ふものなれば、品質優良なる玉鋼を使用すれば積み沸かしを行ふことなく、玉
   鋼より直接鍛錬したるものにして可なりと思考す。
 C.鉋鋤(ほうそ=かんなすき)によりて鍛錬する鋼を損失することは極力減少せしむるやう工夫研究の要あり。

3.実 施 要 領

1.実施方法
  後鳥羽天皇700年祭奉納刀入選の三刀匠、紀政次、小山信光、守次則定(三者共福岡県居住)をして附録購買仕様書(稿末参照)に
  より玉鋼、包丁鉄及純鉄を使用し人力によりて各4本を鍛造せしめ、別に純鉄を使用しキュポラを以て加炭後送風機利用の加熱
  炉及空気槌等の機械力によりて各2本を鍛造せしめたり。
  完成せる刀に対しては各種の試験を実施し、切味及強靱性を比較研究し、以て玉鋼の代用材料及機械力利用の可否を研究せり。
  1振完成(研磨は除く以下同じ)に必要なる地鉄の重量、松炭の消費量、鍛錬経過及必要時間等に就きて時間研究を行ひ所要材料
  の決定及原価計算の参考とす。

2.実施場所
  九州帝国大学工学部冶金学教室日本刀鍛錬所及機械工学教室鍛工場、鋳工場にて実施す。
  第1図は鍛錬所の全景、第2図はキュポラ上部、第3図はキュポラ下部、第4図は1/7ton空気槌、第5図は送風機による火床なり。








3.刀匠指導方針
  鋭利と強靱との相反する性質を併有すべき刀鋼の炭素量は0.5〜0.7%の範囲にあるを可とするが故に本研究試験に於ては鍛錬回
  数3回毎に炭素の分析を行ひ完成後に於て上記の範囲内にある如く鍛錬方法を研究せしめたり。
  心鉄は刀の折損及湾曲を防止すべきものなれば炭素量は0.05〜0.25%の範囲になるよう鍛錬せしめたり。
  棟打により折損したる後断面組織の顕微鏡検査を行ひ、焼入温度の適否、刃鋼及心鉄の鍛着状況及地鉄中に残存する介在物の状
  況等を調査し、その適否を判定せり。
1
4.使用地鉄
 A.玉鋼及包丁鉄:玉鋼は花崗岩系砂鉄即ち真砂を炉により木炭を以て低温還元して製造された鈷(けら)の中より日本刀地鉄として
   適するものを選出したる良質の和鋼にして、各部の炭素量に若干の変化あり、且つ多少の介在物を含み、一塊の重量約0.4〜
   1sのものなり。
   包丁鉄は玉鋼を採取したる残部の銑及歩鈷を原料とし、炭素含有量を低下せしめたる和鉄にして介在物可成り多く、一塊の重
   量2〜2.5sの扁平状のものなり。
   当廠に於て分析せる玉鋼及包丁鉄の成分は第1表の如し。第6図は玉鋼を示す。
   玉鋼及包丁鉄中に含まれる不純成分は平炉鋼及ルツボ鋼に比して数分の一至(ないし)十数分の一の少量なり。
   而(しか)も鉄と固溶せずして介在するもの多きが故に、加熱鍛錬によりて次第に減少せしむることを得。
   空気中の酸素及窒素は高温溶融の際に鋼の中に進入し来り、鍛錬性を妨害し衝撃抗力を脆弱ならしむる等、悪影響を及すもの
   なれ共、玉鋼及包丁鉄の如き低温還元鉄にはその含有量少なし。

   工藤博士の研究に依れば、玉鋼の酸素及窒素は夫々約0.009〜0.002%にして平炉鋼に比較すれば数分の一の少量なりと謂ふ。
   斯くの如く玉鋼及包丁鉄は非常に純粋なるが故に折返し鍛錬容易なり。又、焼入に際しては変態の速度大なるため沸匂鮮明に
   現れ、鍛接面は地肌となり微妙なる模様を呈し、地鉄は美麗なる光沢を発し、焼刃の中に興味ある働きを現し得るなり。

 B.玉鋼、包丁鉄以外の地鉄: 現在、日本刀の材料としては玉鋼、包丁鉄のものなれども、尚、この外に材料として使用し得るも
   のあるべし。
   既に戦国時代、西洋との交易開かれてより、外国製良質の鋼が南蛮鉄と称して輸入されたり。
   慶長以降の刀工中、越前康継はこれを使用し、その作刀の中心に「以南蛮鉄作之」と明瞭に刻銘せり。
   又、肥前忠吉一派、筑前信國一派及大阪刀工一部にも南蛮鉄を使用せることが知らる。
   南蛮鉄には数種あるも印度産ウーツ鋼ならんと推定さる。これは間違い
   斯様に適度なる鍛錬方法を以てすれば玉鋼、包丁鉄以外の良質の鋼も日本刀になり得ることは慶長の頃より南蛮鉄で証明せら
   れたりと云うべし。



  
第1表 玉鋼及包丁鉄分析成分
名 稱 C Mn Si S P 介在物 摘     要
玉鋼 上 1.36 痕跡 0.016 0.001 0.009
廣島市帝國製鉄
玉鋼 中 1.20 0.039 0.002 0.015
   同
玉鋼 下 1.21 0.031 0.002 0.019
   同
玉鋼 竹 1.59 0.013 0.023 0.004 0.023
東京市日本刀鍛錬会
包丁鉄 0.05 なし 0.016 0.003 0.018 0.333 廣島市帝國製鉄

 本研究試験に於ては次の如く現在の冶金技術を以て製造されたる純鉄を使用し、玉鋼、包丁鉄以外に日本刀になりうる地鉄を研究
調査せり。

 イ.水素還元鉄
  酸化鉄(ミルスケール又はワイヤドローイングスケール)を粉砕し、電熱炉中に入れ、温度約900℃に於て水素(水の電気分解によ
  りて得たるもの)を以て還元したる海綿状純鉄にしてプレスにて円錐型に成形せらる一塊の重量約1.8sなり。
  水素還元鉄の分析成分は第2表に示す。(会社提出)

     水素還元鉄は若干の水素を包含しあるも火床中にて加熱する際に追い出す
 ことを得。本鉄に卸し鉄法を施して完成したる刀の地肌を見たるに玉鋼
 鍛錬の刀程冴えたる地肌を現さず。
 鑑刀上、所謂、粒立ちたる地肌を現し、北陸街道の新刀地肌に酷似の感あ
 り。

 本鉄にキュポラを使用して機械卸し鉄法を行ひたるに、炭素吸収過多にし
 て、卸し鉄の約1/4は炭素含有量約3.6%の白銑となり、残余は1.2〜1.5%の
 鋼となりしも、これ等を混じて15回鍛錬したるに、地肌頗る細密となり
 多少粒立ちたる感あれども、山城位の新刀地鉄を見る如き感あり。

 本鉄は低温還元により製造せられ、化学分析に示されたる値は純粋(第2表)
第2表 水素還元鉄分析成分
名稱 C Mn Si S P Cn
水素還元鉄
1.36 痕跡 0.016 0.001 0.009 0.02
   なるも、その前身は洋鋼 (平炉鋼又はルツボ鋼等の高温溶融にて精錬されたる鋼を謂う) なり。
  砂鉄系の和鋼と差異あることは当然なり。洋鋼、鍛伸刀は刃縁に沸の出現困難なり。
  この洋鋼には地肌の組合せなく、又、多量の不純成分含有しあるため、焼入の際、刃縁に冷却速度による硬軟両組織の変化極め
  て少きためなり。而(しか)して本鉄の刀には刃縁に沸しを認むることを得るも、荒沸しは現れざるものの如く、品位は和鋼と洋鋼
  の中間に位するものと思考することを得。第7図は水素還元鉄なり。 
                    ※注:美術刀の視点でしか刀を見ていない。刀身外観(地刃)は性能と無縁。後の試験で証明される
5.卸し鉄法
  包丁鉄、古釘及古鍬(くわ)等の和鉄より日本刀を製造するために卸し鉄法と称し火床中にて木炭の炭素を吸収せしめ、玉鋼に匹敵
  する卸し鉄を合成する技術が昔より伝来し居れり。
  本法は水素還元鉄及電解鉄に対しても適用し得る方法なるを以て、手卸し作業(伝来の儘の方法)及機械卸し作業(キュポラを使
  用する方法)を実施せしめ、鍛錬の機械化と共に卸し鉄法の機械化を研究せしめたり。
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6.鍛錬
  鍛錬作業の目的は介在物の除去、材質の均質化及炭素量の低減(強靱性の付与)にあり。
  玉鋼は砂鉄より低温還元にて製造されしものなるが故に介在物の混在及局部的炭素量の不同は不可避なれども、その結晶粒は最
  も純粋なる炭素鋼を形成し、炭素以外の不純元素は固溶すること少く、介在物として混在するものと考へらる。木炭中に加熱し
  槌撃すれば介在物は次第に絞り出され、不同の炭素量は次第に均一化し且つ低減して材質は強靱性を増す。
  斯くの如くして刃鋼として適度なる炭素量に到る迄折返し鍛錬を行ふ玉鋼及包丁鉄は鍛錬の際、鍛着容易にして、鍛着面は地肌
  として現るるけれども、高温溶融鍛錬によりて製造されたる鋼の完全なる鍛着は非常に困難なり。電解鉄及水素還元鉄に卸し鉄
  法を施し得たる鋼は鍛着容易にして、刀の材料として使用し得ることを知れり。これ等の鍛錬可能なるは不純成分少きためなる
  べし。  
  1振り完成迄に大部分の時間を消費する作業は鍛錬なり。
  従来の鍛錬方法は手フイゴを使用して鋼に加熱し、刀匠及向槌の人力槌撃によりたるも、これは古来千年以上変わらざる原始的
  方法にして急速多量整備を必要とする現今には不適当なり。
  鍛錬作業が材質に及ぼす影響は上述の如く学理的に考察すれば必ずしも人力鍛錬に依るべき理由を発見し得ず。
  即ち、適度なる槌撃を与ふれば、その方法は人力に依らずして機械力に依るも差し支えなき筈なり。
  故に、現今の空気槌(又はベルト槌)及加熱炉に送風機を以てすれば能率増進を期し得ること明瞭なり。
  機械力鍛錬の利点を上ぐれば次の如し。

  A.人的資源の欠乏せる現今に於て、優秀なる向槌の取得は不可能なり。機械力を利用すれば人的欠乏を緩和することを得。
  B.古来の鍛錬方法による時は刀匠と向槌の気脈一致せざる處無しとせざるも、機械力に依る時は刀匠自らこれを使用し意の儘
    に操縦することを得。
  C.強大なる槌撃力を得且つ槌撃力の調整容易にして短時間に槌撃回数多く、鍛錬作業の能率を増進せしめ労力を省き、木炭の
    消費量及地鉄の焼き減り小にして生産原価を低廉ならしむることを得。

7.硬軟組織の組合
  日本刀地鉄の特徴は硬軟各種の鋼を組合せて切味及強靱性を発揮せしめたる点なり。その様式に種々あれども、古来多く用ひら
  れし各種の名称及様式を第5図に示す。
  これ以外に刀匠独自の考案に依る複雑な組合せあれ共、概ね上記の範囲を超へざるものなり。



  図中@は同質の鋼により構成されるが故に焼入後は平打及棟打に対して脆弱にして折損し易き※1性質を有す。
  A、B及Cは2種の鋼を各個に鍛錬して組合せたるものにしてAは靱性に富む心鉄を使用せざるため脆弱※2なれど@よりは強靱
  なり。
  B及Cは靱性に富む心鉄を有するが故に強靱にして、鍛錬による鋼の消耗率比較的少く組合せ作業容易にして、所要時間比較的
  短少なり。故に迅速多量整備を必要とする場合には適当なる組合せなり。 
  D、E、F及Gは3種又は4種の鋼を組合せあり。各位置に適当なる炭素量を与へ刃文地肌の美を増す点に於て前者に優れたる
  も、鍛錬せる技量を要し、所要時間比較的長く且つ鋼の消耗率もより多きを以て迅速多量に整備を必要とする場合には適せざる
  べし。
  組合せには上述の如く種々あれど、実際作業としては最も簡単なるマクリ及甲伏の2方法に依れる刀が最も多く、又、結果に於
  ても四方詰及本三枚の如き複雑なるものと大差なしといはる。

 本研究試験にて試作する14振の内訳はマクリ7振、甲伏6振、本三枚1振なり。

筆者注1: 第1報の強度試験では一枚鍛えの刀剣鋼が強靱性を示している。又、一枚鍛えの古刀は強靱だった。鋼材の性質に対する考
 察が足りない。玉鋼二枚鍛えの先入観が強すぎて、造り込みの認識が偏向している。新々刀の概念が如何に根強く浸透していたか
 が窺える。
筆者注2: これ以外に古刀期の割刃金は皮鋼が軟鋼だった。Aの割刃鍛の解釈が偏っている。
 冒頭でも述べたように、日本刀の科学的研究にも拘わらず、新々刀の鍛法を前提として、一枚鍛えの古名刀や実用的合わせ鍛えに
 触れていない点に注意。
 丸鍛えは脆弱との見解は、玉鋼の新々刀〜現代刀に就いての事で、練り合わせ複合組織の古刀及び粘硬性を加味した特殊綱刀には
 当てはまらない。新々刀を根拠とした日本刀神話が世間の隅々にまで深く浸透していた。
                                詳しくは、折返し鍛錬と強度日本刀の常識を問う素延べ刀の項他を参照
3     
   
8.切味試験


第9図切味試験機
 巻藁試切(径10pのもの2束重ねたるもの)及極軟鋼板切(厚2o、幅10o)の外に九州帝国大学冶金学
 科教室備付の日本刀切味試験機にて同一条件の下に試験し、切味及強靱性を比較せり。
 第9図は試験機にしてシャルピー衝撃試験機の原理に依りたるものにして、L型鋼の枠よりなり、回
 転部の摩擦を可及的小ならしむる如く製作されたるものなり。
 
 試験すべき刀を振子A、Bに取付け、A、Bの回転軸中心Cの直下Dに被切物の木片を取付け、A B垂直に
 対して120°より落下せしめ、刀が木片を裁りて後の A B の上昇し得る角度に依りて切味を判定
 す。被切物は均質の米松を用ひ、寸法10x15X300oの柾目の部分を使用せり。
 その取付け位置及角度は調整し得る構造のものにして、本試験に於ては文字板より45pの位置に刃
 の当たる方面に対し45゜の角度に取付けたり。

←筆者注:人 力では如何に練達の斬手でも常に刃筋が一定とは限らない。公平を期す為にこの切味試験機は考案された

9.落下試験
  落下試験機(第10図)によりて平打、刃打、棟打を実施せり。落下試験に於ては重錘の落下高と刀の撓(たわ)みとの関係を曲線
  にて求め、刀が切断に至る迄の経過を現し強靱性を比較せり。              ※筆者注: 第1報に掲載しているので省略

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4.経 過 及 成 績

 1.卸し鉄法

 A.手卸し
   手卸しに使用せし炉は鍛錬に使う火床にして、火床の羽口より下に卸し鉄の溜る凹所を造り炉底に木炭の粉末を敷き、その上
   に藁灰を載せ(第11図)、尚、松炭を挿入して点火する。次に卸さんとする鉄を数回に分ちて松炭上に置きその上を松炭にて覆
   ひ、フイゴにて送風すれば鉄は次第に熱せられ半溶融の状態にて松炭の間に落下し床底に溜る。
   斯くて、落下の途中及炉底にある間に炭素を吸収す。
   炉底より卸し鉄を出し、直ちに水中投入冷却し該部に附着しある鉱滓を除去す。火床中に在る間に鉱滓は流動性良きため卸し
   鉄の下部に附着し易し。
   1回の卸しにて炭素量不十分なる時は2〜3回行ふものとす。
   卸し鉄は玉鋼に類似の外観を有し(第12図)炭素含有量は局部的に差異あるも、概(おおむ)ね玉鋼の程度なり。
   手卸しの場合に1振分の卸し鉄4.8sを得るためには純鉄の6.8〜9.6sを必要とせり。
   故にその歩留りは50〜70%となる。所要時間は2.1/2〜3時間を要し、松炭消費量は25〜30sなり。



 B.機械卸し
  キュポラ及送風機(第13図)を使用し機械的に実施せり。
  羽口の下部に半球状の卸し鉄の溜りを造り、炉底の構造は火床の場合と同一とし高温計を挿入し松炭を充満して点火し、手卸し
  の場合と同一要領にて炉の上部より松炭と純鉄を交互に装入して送風し、迅速多量卸し鉄法を研究的に実施せり。
  風圧はU字管により水柱の高差によりて測定す。
  水素還元鉄竝に電解鉄の経過を第3表及第4表に示す。
  第3表によれば水素還元鉄11.625sより第14図に示すが如き卸し鉄9.2sを得たり。
  故に歩留りは9.2/11.625=79%なるも、本卸し鉄の下部約2.50sは炭素吸収量過多にして白銑となり、上部突出部約2.720sは吸
  炭量不十分にして、適度なる吸炭量のものは中央部の4.230sなり。松炭使用量は25sなり。
  第4表によれば電解鉄7.5sより第15図に示す不規則なる形状の卸し鉄7.3sを得たり。
  故に歩留りは7.3/7.5=97.3%なるも本卸し鉄の下部(第14図の左方)約3.28sは炭素吸収量最も多くして白銑となり、中央部3.1s
  も過多にして白銑となり右方0.92sは適度なり。松炭使用量は14sなり。           ※ 第12図、第3表及第4表は省略する
                                                    
 
5                                                          
2.刃鋼及皮鋼の鍛錬


  A.玉鋼及卸し鉄の鍛錬(人力)
   マクリ及甲伏にては1振分として4〜4.8sを準備し、本三枚にありては刃鋼として1.2〜1.5s、皮鋼として2.2〜2.5sの準備
   をなす。
   鍛錬回数3回毎に採取せる分析資料は前記の量目中に含まれ居るものとす。
   玉鋼を火床に入れ700〜900゜に加熱し槌にて煎餅状とす。これをヘシ鉄と謂ふ(第6図)。重量450〜500grの大型のヘシ鉄1枚を
   造り、これを包丁鉄にて火造りしたるテコ鉄に鍛接し(第16図)、この上に小型のヘシ鉄を正しく数層に積み累(かさ)ね(第17図)
   外面を藁灰又は日本紙を水に浸したるものにて包み、その上に粘土水をかけ火床に入れ、約1,000〜1,200゜に加熱す。これを
   積み沸しと謂ふ。   
   刀匠の流儀によりては積み沸しをなさざる者あり、又、1振分のヘシ鉄を一度又は二度に積み沸しを行ひ、各層間に鍛着剤と
   して硼酸を使用する者あり。
   積み沸し作業に於ては最初数回軽打し、次第に強打してヘシ鉄を鍛着せしめ、又、上面及側面より槌撃し概ね六面体の鋼片と
   す。癒着したる後は約1.000〜1.100℃に加熱して鍛錬を開始す。これを本沸しと謂ふ。
   炭素吸炭量適度なる卸し鉄を鍛錬する場合には積み沸しを行はず大型ヘシ鉄数枚を造りて本沸しを行ふ。
   鋼片を火床より出し、横に鍛伸して上下面が原の1.5〜2倍の面積となりたる時、藁灰又は粘土水を塗りて再び加熱し、縦に鏨
   の切目を入れ(第18図)、金敷に水を流しその上にて強打す。この時は大なる音響を発して表面の酸化鉄を四散せしむるを以て
   (これを水打と謂ふ)速に切目より折返し必要に応じ硼酸を与へて強打し癒着せしむ。この作業を折返し鍛錬と謂ふ。
   次ぎに同様に加熱し縦に鍛伸し横に切目を入れ折返しをなす。斯くの如く折返し鍛錬を繰り返すことによりて鍛錬の目的を達
   せられ、刃鋼及皮鋼として適度なる炭素量に至りて鍛錬を止む。
   本鍛錬法にては鏨の切目は十文字をなすを以て十文字鍛えと称し、横のみに切目を入れる鍛錬を一文字鍛え(又は柾目鍛え)と
   謂ふ。  第16図〜第18図は省略
   玉鋼の積み沸しをなさず大型ヘシ鉄数枚を作り包丁鉄を中間に挟みて本沸しをなし、縦に鍛伸し一端を万力に銜(くわ)へ他端を
   捻りて螺旋状とし、3個に切断し重ねて鍛着せしめ爾後は前記と同様の鍛錬方法を繰り返すことあり。
   斯くの如き鍛錬法を捻(ひね)り鍛えと稱す。                                                                 
   玉鋼及卸し鉄は8〜18回の鍛錬にて可なるも、本鍛錬回数による鋼の歩留りは、マクリ鍛及甲伏にありては30.3〜37%にして、
   本三枚にては皮鋼40%、刃鋼12.5%なり。
   即ち、前者の場合に於ては刃鋼の重量は360〜440匁にして後者の場合に於ては皮鋼240匁、刃鋼の重量は40匁となる。
   刀匠及向槌1人にては1振分の皮鋼及刃鋼の鍛錬完了に2日を要し、松炭使用量は70〜75sにして、本三枚に於ては78〜85sな
   り。玉鋼の炭素吸炭量は1.2〜1.6%なりしが、本研究試験に於ては前記の鍛錬によりて0.51〜0.62%に低下せり。

  B.白銑の鍛錬(機械力鍛錬)
   機械卸し法を実施したる結果、炭素吸炭量過多にして一部分に白銑を得たり。従来は白銑に対しては折返し鍛錬不可能とされ
   たるも、純鉄の機械卸しによりて製造されたるものは折返し鍛錬可能にして、次第に炭素低減して靱性を生じ来たり、日本刀
   に完成せしむることを得たり。
   これが原因を考究するに普通の白銑は鉄炭素以外の可鍛性を妨害する不純成分比較的多量に含有されあるも、本法によりたる
   ものは不純成分頗る少量にして純粋なる鉄及炭素合金と見做し得る成分のものなるが故に、普通の白銑とは可鍛性に於て大な
   る差異を呈したるものと思考せらる。
   第19図は水素還元鉄より生じたる白銑にして折返し鍛錬によりて鍛着しある状況を示し、第20図はセメンタイトが鍛錬により
   て鍛伸されたる状況を示す。炭素含有量は3.6%なり。
   第21図は同一白銑中に存在するレーデブライトにして局部的に炭素含有量の差異あることを示す。
   炭素含有量適度なるものに過多なるものを混じ、送風機にて本沸を行ひ空気槌にて鍛錬するに過多なるものは火花となりて飛
   散し易きを以て初めは鍛着し難きも、徐々に作業を継続すれば次第に鍛着し来り折返し鍛錬容易となる。
   然るに、炭素量は玉鋼より遙かに多きが故に刃鋼に適度なる炭素量.0.5〜0.7%に低下せしむるには玉鋼の場合より鍛錬回数大
   となる。従って地肌は細密となり鑑賞上興味あるものとなる。
   第14図の卸し鉄を二分して4.6sとし、これより1振分の刃鋼の鍛錬完了には1日を要し、鍛錬回数は15回にして1.025sとな
   り炭素含有量は0.5%となりたり。松炭使用量は40〜49sなり。
   鍛錬による地鉄の歩留りは1.025/4.6=22.3%となるも、白銑は鍛錬の際火花となりて飛散するものあるを以てこれを防止すれ
   ば尚向上の余地あり。
   第15図の卸し鉄より得たる6.0sに15回の鍛錬を施して2.25sの刃鋼を得、炭素量は1.1%となり所要日数は1日にして松炭消費
   量は49sなり。
   鍛錬による歩留りは2.25/6.0=37.5%となり良好なる歩留りを示せるも炭素含有量過多にして尚数回鍛錬の必要あるものと思考
   せらる。上記の数値は将来作業法の研究改良によりて更に向上するものと考察せらる。


注:
白銑はパーライトと
レーデブライトとの
混合組織

  第19図機械卸しで出来た    第20図鍛鉄によって   第21図同一白銑中に
  白銑と鍛接面         伸びたセメンタイト  存在するレーデブライ

注:
レーデブライトはセメンタ
イト主体の組織。
非常に硬い
6

3.心鉄の鍛錬

  最も簡単なるは包丁鉄をその儘使用する方法なるも、本鉄は組織内に可成り多量の介在物を含有しあるが故に数回鍛錬を施して
  介在物を除去し且つ粒を微細化せしむれば機械的性質向上し一層良質となる心鉄を得るに至る。
  又、心鉄としては純鉄の成分のものより若干炭素を含有するものが湾曲し難く強靱にして実用上好都合なり。
  故に包丁鉄に玉鋼又は純鉄に卸し鉄を積み累ね5〜8回鍛錬して炭素含有量約0.2%のものとするを可とす。
  本研究試験に於ては包丁鉄1〜2回鍛錬し、純鉄には卸し鉄を混じて鍛錬せり。
  卸し鉄は炭素含有量0.4〜0.5%のものと純鉄とを同量使用し5〜8回の鍛錬による歩留りは約0.2%にして炭素含有量は約0.2%に
  低減す。鍛錬には半日を要し松炭使用量は12〜15sなり。
  心鉄の重量は購買仕様書規定重量の1/2を標準とし338〜412grを組合せたり。            この数値は明らかに誤植

4.硬軟組織の組合せ

  A.マクリ
   マクリにてはテコ鉄金に心鉄を鍛着せしめ、この下に皮鋼を重ね該部を藁灰にて覆い粘土水をかけて加熱し2〜3回表裏より交
   互に槌撃して十分に鍛着せしめマクリ台に載せ第22図に示す如く中央より折曲げ、酸化鉄を完全に除去したる後鍛着せしめた
   るものなり。



  B.甲伏
   刃鋼を半楕円形に曲げ、この中に心鉄を入れマクリと同一要領にて鍛着せしめたるものなり(第23図)。

  C.本三枚
   第24図に示す如く皮鋼を二等分し置き、その一にテコ鉄金を鍛接し皮鋼上に刃鋼を載せ同一要領にて鍛着せしめ、最後に皮鋼
   の残余を鍛着せしめたるものなり。

 上記の如く組合せたるものを鍛伸し、切先に心鉄が現れざる如く刃鋼にて包み又鉋鋤、鑢及荒砥によりて刀の形状とし焼刃土を塗
 り、直刃又は五ノ目に土取りを行ひ乾燥せしむ。
 焼刃土の調合は各刀匠の秘密とする處なるも粘土、松炭粉末及荒砥の粉を或る割合に混じたるものなり。
 組合せより土取終了迄にはマクリ及甲伏に於ては1日、本三枚に於ては1・1/2日を要し、松炭使用量は前者は7〜10s、後者は17s
 を要す。
 マクリ及甲伏に於ては刃鋼と心鉄の重量和は前者は1.760〜2.1sにして購買仕様書の規定重量に合致せしむるためには鍛伸鉋鍬及
 鍛冶砥によりて788〜825grに減量せしめざるべからず、故に地鉄の歩留りは39.4〜44.7%となるも作業法の改良によりて本消耗率
 は若干向上せしむることを得。
 斯くして完成後に於ける刃鋼と心鉄の重量は略々(ほぼ)相等しくなることを知る。
 本三枚に於ては皮鋼、刃鋼、心鉄の重量和は1,430sなり。
 従って地鉄の歩留りは52.7〜55.5%にして完成後に於ては皮鋼と刃鋼の重量和は心鉄の重量と略々相等しくなることを知る。
7
5.焼 入

  鍛錬所内部を暗黒とし、粒を揃へて割りたる軟質松炭をフイゴにて吹きながら土取したる刀身を加熱す。この際刀の表裏ともに
  一様に加熱し得る如くし、焼入温度に到達せしことを火色にて判定すれば速に水舟(焼入槽)中に入れ、焼入を行ふ。
  刀匠は長年の熟練により火色によりて温度の適否を判定し得るも、適度なる焼入温度は750〜850℃なり。
  水舟の温度は三刀匠共35〜45℃の間なりき。
  焼入をなしたるものは刃部マルテンサイトの膨張により反りを生ず。且つ表裏に若干の加熱温度の差あるを以て刀身は曲がりを
  生ずることあり。
  焼入後直ちに焼刃土を剥取り80〜150℃に焼戻をなし、又反りを調整し且つ曲りを矯正す。
  反りを直すには棟部の槌打或は加熱によるか各刀匠独特の方法あり。
  反り及曲りを矯正したるものを刀匠自ら荒砥によりて研磨し、切先の長さ身幅、重及肉置等を定め形姿を決定す。
  これを鍛冶研ぎと謂ふ。
  焼入、矯正、鍛冶砥及中心仕立に半日を要し、木炭消費量は5〜7sなり。

6.中心仕立

  中心は荒砥、大村砥及名倉砥により形状肉置等を決定し置きて鑢仕上を行へば鑢目容易にして整然と揃い、中心の形状端正な
  り。

                                                  (次ページへ続く)



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