将校用軍刀の研究(2) 第一報の続き、及び第二報0

将 校 用 軍 刀 の 研 究 (2)

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第一報、落下試験の続き

B.試験成績

 イ.本鍛刀の試験成績
   試験成績より考察するに、本鍛刀と雖(いえど)も相互の間に相当大なる差異あること判明せり。即ち、平打試験に於て落下高
   を漸次(ぜんじ)増加せしに、刀工F及Cのものは次第に湾曲するも切断することなく、落下高635oに至りて刀の撓(たわ)みは両支
   点の底部に到達し、更に大なる試験実施は不可能となれり。但し、刀に焼刃深さの刃切れを生じたり。
   刀工D及Eのものは160oに於て小なる湾曲にて切断せり。
   棟打試験に於て刀工F及Cのものは落下高夫々(それぞれ) 260o及310oにて切断することなく鎬筋迄の刃切れを生じたり。
   刀工D及Eのものは160oにて切断せり。

 ロ.鍛伸刀の試験成績
   鍛伸刀に於ては刀剣鋼製2刀が平打及棟打に於て断然優秀なる性質を示せり。
    刀剣鋼製刀の平打及棟打をみるに、落下高低き時は落下する重錘を跳ね上ぐる傾向あり、即ち、バネの如き感あり。
    586oにて刀工Bのものは小なる湾曲にて切断せるも、刀工Cのものは切断することなく120゜に湾曲す。(第7図参照)
    棟打に於て刀工Bのものは210oにて切断せるも、刀工Cのものは210oにて切断することなく鎬筋迄の刃切れを生じたり。
    
 本試験に於て特筆すべきは刀工C (刀剣鋼)の平打試験に於て120゜に湾曲するも、刃切れを生ぜざることなり。鍛伸されたる刀工B
のものに比較し、鍛伸技術上に差異あるものと思考す。

 第3表は試験成績を示す。


刀剣鋼は最後まで刃切れを生じなかった

第3表 落 下 試 験 成 績

區分 刀工 材料 平    打 棟    打 摘   要
墜撃
o
状況 墜撃
o
状況


A 安来鋼
485 切断
湾曲なし
110 切斷
B
刀劍鋼 585 切断
湾曲小
210 切斷 平打にて湾曲す
るも刃切れなし
C
 〃 585 切断せず
120゜湾曲
210 鎬筋まで
刃切れ
平打にて湾曲す
るも刃切れなし






D
玉 鋼 535 切断
湾曲小
160 切斷
E
 〃 436 切断
湾曲小
160 切斷
F
 〃 585 切断せず
50゜湾曲
260 鎬筋まで
刃切れ
平打ちにて焼刃
深さの刃切れ

G
 〃 535 切断せず
120゜湾曲
310 鎬筋まで
刃切れ
平打ちにて焼刃
深さの刃切れ



C.試験成績の考察

 落下試験成績に於ては本鍛刀は鍛伸刀より遙かに優秀なる成績を示せり。然れども、本鍛刀と雖(いえど)も鍛伸刀の優良なるもの
 に比し、却(かえ)って劣等なる成績を示せるものあり。
 本鍛刀は優良なる地鉄を使用し、鍛錬及硬軟組織組合せ適当にして且つ適度なる温度の焼刃を実施したるものは、万邦無比の鋭利
 強靱なる日本刀の資格を有するも、上述の条件を欠く場合は鍛伸刀より劣悪な刀となり、鍛錬及硬軟組織組合せの意義を失うこと
 あり。これを要するに、本鍛刀が鍛伸刀に優る所以は地鉄、鍛錬、硬軟組織組合せに依り容易に落下せざる点に存す。

  落下試験成績より強さの序列を附せば次ぎの如し。
  
  1.刀工C  2.刀工F  3.刀工C (刀剣鋼)  4.刀工B (刀剣鋼)  5.刀工D  6.刀工E  7.刀工A (安来白
    紙3號)

 落下試験成績より判決し得る事項次の如し。

  イ.日本刀最大の弱点は棟に猛烈なる衝撃を受けたる場合、刃切れを生じ切断し易き性質を有することなり。故に使用者はこの
    弱点を知悉(ちしつ)して絶対に棟を使用せざる如く注意すること肝要なり。

  ロ.本鍛刀と雖も地鉄、鍛錬、硬軟組織組合せ及焼刃の当を得ざるものは鍛伸刀に劣る。
    第1位の刀工Cのものは細く揃いたる柾目肌、四方詰、中直刃、刃縁匂稍々締まり小沸絡(から)むものにして、又、第2位の刀
    工Fのものは中板目、柾目交りの肌、マクリ鍛え、中直刃、刃縁匂深く小沸絡むものにして、両者の成績より見て実用上最
    も強靱なる刃文は中直刃、刃縁匂深く小沸絡むものなりと謂うことを得。
    本鍛刀中最下位の刀工Eのものは地板目、鎬柾目、四方詰、五の目乱足入り匂深く刃縁荒沸絡むものなり。
    沸はマルテンサイト大、ソルバイト小なる組織にして、匂は反対にマルテンサイト小、ソルバイト大なる組織なり。
    故に、匂縁匂深く小沸絡むものは組織徐々に変化しあるを以て組織に無理なきも、刃縁に荒沸あるは組織急激に変化しある
    ため組織に無理ありて衝撃に対して脆弱なる性質を有す。
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3.硬 試 験


 各刀の焼刃及地の硬度をショア硬試験機を以て測定す。
 測定方法は第8図に示す如く刀の下部に適度なる形状の受台を置き、硬度測定場所が水平の位置を保つ如くす。
 切味試験及落下試験に於て優秀なりし刀工Cの物(玉鋼)は焼刃及地の硬度最高にして、平打にて刃切れの生ぜざりし刀工C(刀剣鋼)
の地の硬度は最低の数値を示せり。その成績は第4表の如し。





    
第 4 表
 
區文 刀工 材  料 研磨の
状態
焼刃
硬度
地硬度 摘   要





A
安来白紙3號 70〜80 40〜50
 刀の表裏を各10回
 測定したる結果とす
B
 刀 劍 鋼
80〜85 40〜50
C
85〜88 30〜35





D
 玉 鋼 80〜85 40〜50


E

80〜85 40〜50
F
80〜85 40〜50
C
88〜93 50〜53


筆者注: 各刀の焼刃の硬度は新々刀より遙かに硬い。

     参考: 古刀=57前後、新々刀=68前後、満鉄刀=57

 刀工 C の陸軍刀剣鋼の刀身は落下試験で最高の成績を示した。地鉄の柔らかさの結果である。刀工 B の刀剣鋼との差は焼入に依
 るものと思われる。
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5.将 来 に 対 す る 意 見

 
A.将来多数製造をなす場合は、刀と同一構造の落下試験片を刀工より提出せしめ、平打及棟打に対する強さを常に研究調査し、絶
  対に切断せざる理想の域に近づくべく努力するを要す。

B.本鍛刀の検査格例を定むる際には、平打にて90°湾曲するも切断せざること及落下高260o以上の強さを有することことを必要
  条件とする。

C.外装に対しては研究中なり。

筆者概括感想

1.従来の日本刀の性能のバラツキが改めて確認された。刀剣鋼の素延べ刀同士でも品質の格差が生じている。
  鋼材が同じだから鍛延と焼入の技術に左右される。
  格差があるという事は、焼き等の工夫で更に性能が改善される余地がある事を示している。
  先入観の無い技術者なら、この格差の解明に興味を持つ筈であるが小倉工廠はそれ以上素延べ刀の研究をしていない。

  落下試験で鍛伸刀(素延べ刀)は好成績を収めた。堅硬物の切味試験では完全に玉鋼有利と判定した。
  只、刀剣鋼の素延べにも、古刀のような焼きの改善等の余地はあった訳だから、この判定は少し性急という気がする。ましてや
  他の刀剣鋼材と総て比較している訳ではない点に注意。
  このことは冒頭で述べたように総ての項目の判定に就いて言える事である。

2.刃文の捉え方は柴田果刀匠と考えを異にしている。表面の刃文の外観的要素だけで果たして性能が断定出来るのだろうか。

3.実用刀の要素の優先順位は@折れ難い、A曲がり難い、B切れるの順番だろう。戦場では先ず折れない事が肝要と認識してい
  る。棟打の弱点を指摘しているものの、各自刀工の研究に俟(ま)つとして造兵廠自体の具体的な改善策が模索されていない。

4.熟練した使い手に依る玉鋼の優秀な日本刀を以ってしても、3o厚の軟鋼板(注:ショア硬度28)は切断出来なかった。
  従って鋼製鍔の厚みは3oあれば十分と判定している。後の新軍刀鍔に参考とされた。

 第一報稿末に記載の刀身、外装に関する発注仕様書を以下に掲載する。造兵廠の新軍刀の研究過程が確認出来る。
 この時点の研究は、後の陸軍受命刀匠規格刀、及び新軍刀外装(三式)の初期試案である。造兵刀の萌芽は未だ感じられない。
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購 買 明 細 書


 1.刀
    員数 玉鋼鍛造1、刀剣鋼素延べ 2 (筆者注: 1人の刀工に対して) 
    刀は鎬造りにして樋を掻かず華表(かひょう)反りとす。地鉄は玉鋼(材料は交付せず)を使用し古式鍛錬法を以て鍛造し焼刃
    をなすものとす。
    鍛錬方法及刃文は各刀工の最も得意とする方法を以て全精力を傾注して最善の策を得る如く、各刀工に於て全幅の努力をな
    すものとす。中心の長さは次ぎに示す如きものにして刀身と良く均衡のとれたる形状にして入念に鑢仕上げをなしたるもの
    とし、刀工の刻銘をなすものとす。鍛造完了後、上研磨をなし白鞘に収容するものとす。刀の寸法、形状次の如し。
     刀    長 長2尺〜2尺3寸
     反     り 4分5厘〜6分(刀身の中央附近に於て)
     身    幅 1寸〜1寸1分 横手附近に於て 7分5厘〜9分
     重    ね  2分〜2分5厘
     鋩子の長さ 1寸2分〜1寸5分
     中    心 棟区より中心尻迄の長さ8寸〜8寸2分
     振りて余り先の重からざるものとす。
     目釘孔(あな)は2個とし、1個は定位置に穿(うが)ち、他の1個は猿手を通す孔を目釘孔とす。
     刀剣鋼(材料交付)を素延べして各刀工の最も得意とする刃文を焼入、前記の寸法、形状と全然同一のものを製作し、研磨
     の上白鞘に収容するものとす。

 2.外装
    員数1
    A.柄の外形使用金具等は現制式のものと同一なるも、構造上改良すべき点次の如し。
     イ.柄木の材料は朴、桜等の十分生長乾燥せるものを木目正しく木取りし、斜めの方向の木取りは行わざること。
     ロ.柄の長さは約7寸5分とし、柄の全長に亘りて中心(茎)を嵌入(かんにゅう)す。この際中心は柄の中にて間隙少なく、
       且つ、がたつかざるものとす。   
     ハ.柄木の腹背にジュラルミンの当金、その両端に兜金及縁金具を固着し、当金の上を数カ所強靱なる糸にて縛着し、そ
       の上に1枚の鮫皮を前垂着とし、純絹茶褐色柄糸を諸捻巻にて目貫を巻込むものとす。柄巻止の孔は穿(うが)つこと許
       さず。    
     ニ.バネは現制式の通りとし、特に良質なるバネ鋼を使用し且つ適度なる熱処理を施したるものにして永久に強性の減衰
       を来さざるものとす。
     ホ.猿手は金属を使用し、双手に依る刀の操作を妨害せざる範囲の大きさとし、且つ容易に目釘孔より取外し得る構造の
       ものとす。
     ヘ.猿手の孔は目釘孔となるを以て、該部は金属中空ネジ目釘とす。
     ト.目釘は中心及柄の目釘孔に叩き込む程度の嵌合(かんごう)を持たしめ、その材料は十分生長したる男竹の根元にて実質
       緻密に且つ十分に乾燥せるものとす。
    B.鍔、ハバキ、切羽
     イ.鍔  鉄鍔とし、形状は佩用に故障を来さざる範囲に於て現在形を大形とし、厚は薄くし、両面に適度なる模様又
          は透を入れるものとす。鍔成形後、銹染(さびぞめ)又はパーカライジングを施すものとす。
     ロ.ハバキ 1枚ハバキとす。
     ハ.切羽 2枚切羽とす。
     ニ.鍔、ハバキ、切羽と刀身の間隙は可及的少なからしむること。
    C.鞘、鯉口、吊鐶
     イ.鞘  桜又は朴の十分生長乾燥せるものを使用し、外周に皮革を張りて茶褐色の漆仕上げをなしたるものとす。
     ロ.鯉口 現制式のものにして特にバネ嵌入部はバネの摩擦に抵抗し得る材料を使用すること。
     ハ.吊鐶 現制式のものにして吊鐶の損耗に対して補強せられたる構造のものとし且損耗せる場合には交換し得る構造の
          ものとす。
     ニ.鐺  現制式の鐺の底部の厚を増し、土づきとなしたるものとす。吊鐶及責金の位置は適度なる位置を選定して取付
          けること。

筆者注: 刀身中心(茎)の長さ、目釘を2個とするなどの柄の改善は成瀬関次氏等の軍刀修理班の改善提案が多分に採り入れられている。柄巻止めの穴を穿つことを禁じているのは、実戦での柄の損傷原因から当然の事だったと思われる。只、この時点では、欠陥が
指摘されていた諸捻り巻きを未だ容認している。

 
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將校用軍刀製作に關する研究・第二報

(昭和14年 焼入れ組織)

     小倉工廠砲具製造所 砲兵少佐・早川良三、技師・太田宰治、工兵准尉・金山光郎、技手・久保田重穂、嘱託・谷村 熈


1.目  的

 先に報告せる将校用軍刀製作に関する研究に於て試験する軍刀に就き、その組織を調査研究し将来の研究に対する参考資料を得ん
 とす。

2.判  決

 先に報告せる研究に於て切味及強靱性の総合成績優秀なりし刀工C及F作本鍛刀を棟打によりて切断後、断面の顕微鏡組織を調査し
次の判決を得たり。
 切味及強靱性良好なる刀は顕微鏡組織も又良好にして、顕微鏡組織により或る程度切味及強靱性を推定し得るものと認む。心鉄と
しては介在物少なく、且つ、純鉄より若干多量炭素を含有するもの湾曲し難く実用上好適なりと思考す。


3.実施要領

主として刀工C及F作本鍛刀に就き鋼の組合せ状況、組織及び不純物の介在状況等を顕微鏡に依り調査し、これ等が刀の切味並強靱性、即ち優良度に及ぼす影響を調査研究せり。


4.経過竝成績

1.刀工F作本鍛刀
  棟打によりて刃切れを生じたる箇所より裁断し、断面を琢磨(たくま)後、硝酸1%のアルコール溶液にて腐食し顕微鏡により調査せ
  るに、第2図に示す皮鋼及心鉄の組合せよりなるマクリ鍛へたることを知れり。
  組合せ状況を見るに心鉄が皮鋼の中に片寄り或は突出するが如きことなく概ね対象をなす。
  [注]マクリ鍛へとは皮鋼の材料として玉鋼を数回折返し鍛錬し、別途に心鉄の材料として包丁鉄を数回鍛錬したる後第1図
  (イ)に示す如く重ねて鍛接し、これを(ロ)に示す如く中央より折り重ね、(ハ)の如く刀の形状に鍛伸したるものなり。
  即ち、靱性に富む心鉄を堅硬なる皮鋼にて3方向より包囲したるものにして、皮鋼と刃鋼とは均質のものなり。


        第3図(焼刃)   第4図(焼刃と心鉄鍛接部)  第5図(皮鋼と心鉄鍛接部)     第6図(心鉄)      第7図(皮鋼)

  第3図は焼刃の組織にしてマルテンサイトなり。組織細密にして焼入効果十分に現れ組織中に介在物を殆ど認めず。
  焼刃中に大なる介在物存在すれば衝撃の際、該部より刃コボレを生じ易きが故に介在物なきを可とするは勿論なり。
  第4図は焼刃と心鉄鍛接部の組織を示す。白き部位はマルテンサイト、黒き部位はトルースタイトにして心鉄に接して現る、
  即ち心鉄に向ふに従い炭素量逐次減少し漸次焼入効果の及ばざることを示す。
  この両者は網状に入組みて固き結合をなし癒着しあるが故に鍛接部より剥離することなかるべし。X部は鍛接面に残存せる介在
  物にして最大なるものを撮影せり。この部分に存する介在物は焼刃部に露出せるものに比し実用上害は少かる可きも、弱点をな
  すが故に小なるを可とすることは論を俟たざる處なり。
  第5図は皮鋼と心鉄鍛接部の組織にしてフェライトとソルバイトとが網状に入組みて固き結合をなし癒着しあるを見る。
  第6図は心鉄の組織なり。フェライトにして殆ど炭素を含まず粒比較的大なり。中心の黒きは介在物にして第1図に示すマクリ鍛
  への結果中央の鍛接面に残存せるものにして過大の感あり。顕微鏡にてこれを追跡するに断面の中央に断続的に存在しありて、
  介在物はこの外に鍛伸せられし方面に存在するものと認められる。
  包丁鉄には若干の介在物残留するは不可避なるべきも、これを刀の心鉄となす場合には適度なる鍛錬に依りて介在物を除去し且
  つ組織を微細化する要あるべし。
  本刀に於ては心鉄の粒稍々大にして加熱されたる傾向あり、且つ介在物の多ききは心鉄に対する研究不十分なりと認む。
  第7図は皮鋼の組織にしてソルバイトなり。
  本刀は切味試験第3位、墜撃試験第2位、総合成績第2位なりしも心鉄の材料選定及加熱方法に就きて尚数段の研究を進むれば更
  に良好なる切味及強靱性を現すものと思考す。

2.刀工C作本鍛刀
  第8図は断面図にして皮鋼及心鉄の組合せよりマクリ鍛へなることを示す。即ち、第1図と同一にして、刀匠の言に依れば玉鋼及
  和鉄(岩国錦帯橋に使用しありし古き和鉄) を使用しありと謂う。


        第9図(焼刃)   第10図(焼刃 と心鉄鍛接部)   第11図(皮鋼と心鉄鍛接部)   第12図(心鉄)      第13図(皮鋼)

  第9図は焼刃の組織にしてマルテンサイトなり。組織細密、焼入温度適度にして焼入効果十分に現れ組織中に若干介在物を認む
  るも鍛錬に依りて微細化され散在しあるが故に、この程度の介在物は実用上影響を及ぼさざる如く考えらるると共に、玉鋼の
  精錬過程より考察するに若干の介在物が組織中に残留するは止むを得ざる處なるべし。
  第10図は焼刃と心鉄鍛接部の組織にして、白き部位はマルテンサイト、黒き部位はトルースタイトなり。両者相互に入組みて癒
  着し、組織漸次変化し鍛接面を明瞭に見ること不可能なるも介在物の存在する處鍛接面なりと推察される。
  第11図は皮鋼と心鉄鍛接部の組織を示す。白き部位はフェライト、黒き部位はソルバイトにして両者入り乱れ、鍛接面を明瞭に
  見ること不可能なり。
  第12図は心鉄の組織なり。白き部位はフェライトにして粒の境界に存する黒きはパーライトなり。従って若干炭素を含有しある
  ことを知る。組織中に濃黒色に見ゆるはマクリ鍛への中央の鍛着面に存在する介在物にして過大ならず。この他の介在物も細く
  且つ伸ばされおり、この程度の残留は実用上差し支へなきものと思考す。
  これを要するに心鉄全部を通じて大なる介在物なく粒の大きさも適度なるは材料の選定及鍛錬作業良好なりしものと認む。
  第13図は皮鋼の組織なり。
  本刀は切味試験第2位、墜撃試験第1位にして、本研究試験に於て最も好成績を示せるものなり。

5.将来に対する意見
多数製造を実施する場合は刀匠の使用する材料の良否、加熱温度及び焼入温度の適否等を点検するため組織の顕微鏡調査を実施する必要あるものと認む。

筆者注: 第一報では刀工Cの本鍛刀は四方詰となっている。刀身を切断してマクリ鍛えである事が判った。これはどういう事であろうか。
切断する前の第一報で、小倉工廠が造り込みを推測で書く筈が無い。当然納入時の刀匠の申告内容を記した筈である。
刀工Cが切断されるとは知らずに嘘の申告をしたと云うことか。それとも四方詰の積もりで作刀して、結果としてマクリ鍛えの様になったと云うことであろうか。後者の場合は別の問題として原因解明の必要があった。小倉工廠は気づいていないようである。





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