途中切断されている南北朝期備前長船政光
第六章に古刀「政光」の断面写真が掲載されている。日立金属安来工場冶金研究所にて分析された という。 本書の掲載断面写真(左)は部分写真の張り合わせで大変見難い。小片写真の上下に濃度差があり、 各々の小片写真の左右にも濃度差があって炭素分布の正確な判断が出来ない。 右の写真は筆者が小片の濃度差を慎重に修正した。 本体部(著者は刃部、芯部と呼称)の炭素濃度は明らかにばらついている。 何故このような部分写真の張り合わせになったかの理由は不明。 断面の大雑把な炭素分布は刃部 0.16%、芯部0.06%、地部0.2%〜0.52%となっている。 鋼の成分から刃部と地部は同一製鉄原料の異なる炭素量が用いられ、芯部は異なる製鉄原料の鋼と なっている。只、測定位置とサンプル数が不明な為に芯部と地部の範囲が分からない。 従ってこの炭素分布も測定位置のズレに依って変動する可能性がある。 謎の刀身: 著者は「地・刃共にすこぶる健全」と述べている。上掲側面写真を見る限り確かに刃 文も残っているようだ。ところが断面写真には硬鋼の刃金が無い。 著者は「刃先がやや研ぎへったため」と説明しているが果たしてそうであろうか ? 仮に尋常な質量の刃金が付いていたとすれば現状の刃部と称する軟鋼と刃金との鍛接境界面で各々 の鋼に0.5o〜1p近くの炭素遷移が発生する。 刃金が地部の最高炭素濃度0.52%と同等以上と想定すると、現在の刃部先端は0.26%位の炭素量でな ければならない。 然しながら現在の刃部先端は0.16%C(極軟鋼に近い)しかない。 そうだとすれば現在の刃部先端(軟鋼)は5o前後長く、その先に刃金が在ったことになる(図1)。 刃金軸長を5oと仮定すると現在の推定身幅約2.5p(※測定位置不明、写真実測比での最大重ねは 約5.5o)は刃先方向に約1p前後も伸びることになり、相応の身幅を持った刀と言うことになる。 ところが上掲刀身写真の刃区が約1p伸びた状態を想像すると尋常ではない。「刃先がやや研ぎ へった」というレベルではない。「相当に研ぎ減りした刀」ということになる。 ※ 硬度表より推定。元身幅は更に長い
それでは茎の下を削ったのか ? その場合は目釘穴との相関関係で茎上部も均等に削ったことになって現実性に極めて乏しい。 銘の押し形から推測しても茎の身幅は本来の姿であったように思える。 従って、適当な質量の刃金が付いていたとは考え難い。 |
刀剣界は日本刀の「実質」を無視し、これに関する誤りは野放しだった。 関係者は「迷信」を恥じる事なく流布して世間を愚弄し続けて来た。 日本刀に係わる恥部である。この無責任さは糾弾されて当然であろう。 それ故、些か品性に欠けてお聞き苦しいかと思いますが、本項は敢えて 直裁な表現の書評としました。ご容赦願います。 |
← 日本刀諸情報の検証(1) 日本刀考 ホーム | 日本刀諸情報の検証(3) → |