軍刀制定勅令(4) 海軍士官用新軍刀制定0

海 軍 士 官 用 新 軍 刀 制 定

New Gunto establishment for naval officers 1937 Type Tachi

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勅令第六百十四號・第六百十五號


 勅令
 朕海軍服制中改正ノ件ヲ裁可シ茲に之を公布セシム
  御名御璽

     昭和十二年十月二十三日    内閣總理大臣 公爵 近衛 文麿
                    海 軍 大 臣 米内 光政
 勅令第六百十四號

 海軍服制中左ノ通改正ス
 別表海軍服制表士官特務士官准士官服制中短劍ノ次ニ左ノ如ク加フ



        


製式 形状 圖ノ如シ
第一佩鐶ハ鯉口ヨリ約五・五糎、第二佩鐶ハ鯉口ヨリ約二二糎















刀身  品質  鋼
 品質 朴材黒鮫皮着
 柄頭 黄銅、金鍍金、枝櫻毛彫
 鳩目 黄銅、金鍍金、櫻花ヲ附ス
 目貫 金色金属、三雙ノ櫻花又ハ家紋ヲ彫刻ス
 縁金 黄銅、金鍍金、枝櫻毛彫
 柄巻 濃茶色絹絲製平打紐ヲ巻ク
 猿手 濃茶色ノ革又ハ絹絲製丸打紐
 手貫絲 濃茶色絹絲製平打紐總附
 品質 黄銅、銅又ハ赤銅鍍金
切羽  品質 黄銅、銅又ハ赤銅鍍金、旭日ノ模様ヲ彫刻ス
 品質 下鞘朴材黒皮又ハ黒漆鮫皮着セ
 鯉口 黄銅、金鍍金、枝櫻毛彫
 佩鐶 櫓金及鐶 黄銅、金鍍金
    座金 黄銅、金鍍金、裏菊ヲ彫刻ス
    帶金 黄銅、金鍍金、枝櫻毛彫
 責金 黄銅、金鍍金、櫻花及柏葉ヲ彫刻ス
 鐺  黄銅、金鍍金、枝櫻毛彫




 海軍新軍刀の勅令の注意点は勅令第六百十五號にある。
 大正三年の勅令二十四号第二十四條の「長剣」(サーベル)を残し「軍刀」を新たに追加したことである。
 即ち、「戰時事變ノ際ハ軍装ニ長劍又ハ軍刀ヲ佩用スヘシ」と改正された。
 陸軍は新軍刀制定で洋式サーベルを廃止したが、海軍は「長剣」と「軍刀」を併存させた。
 陸軍は新軍刀を勅令で「刀」と標記しているが、海軍は態々「軍刀」と差別標記をしている。
 この表現一つを取っても、陸軍と海軍(陸戦隊を除く)では、「軍刀」の捉え方の違いが解る。
 「長剣」と併存する為に識別を容易にする事と、「軍刀」は経緯からして陸戦隊での使用を前提にしていたものであろう。
 新軍刀制定以降も「長剣」の調達は可能であった。
 陸戦隊以外の新任士官の殆どが新軍刀外装を調達する事は予想外だったのかも知れない。
 そうであれば海軍の「軍刀観」がより明確になったのだが・・・。
 或は、既に存在する「長剣」を引き続き使用しても構わないという現実的な配慮だけだったのであろうか。

 陸軍新軍刀の項でも述べたが、制式仕様と現物外装にかなりの差がある。
 現物の鞘は「漆塗」・「研出鮫皮巻」・「塗装」が多く、「黒皮巻」はあまりお目に掛かった事がない。
 上等金具の毛彫りが標準仕様と云うのは如何にも海軍らしいと言えるが、その一方で上等金具の瀬戸鍍金には触れていない。
 家紋の位置を目貫に限定している点は陸軍と違う。
 陸・海軍共に猿手を丸紐仕様としている事も現物との差が認められる。かなりの裁量巾があった事は陸軍刀と同様である。

 本勅令は十月二十三日制定、十月二十五日公布・施行


 この勅令に基づき海軍省軍務局長から各海軍工廠長宛てに海軍刀製作の更に具体的な製作要領が示達された。
 今回の新軍刀は「儀礼的なものではなく、専ら実用を本旨とする」と冒頭に述べている点に注意。
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海 軍 軍 刀 製 作 細 目

軍刀製作ニ關スル件 軍務一第一六二號                              昭和十二年十二月七日
                                                  海軍省軍務局長
各廰長殿
  軍刀製作ニ關スル件申達

本年勅令第六百十四號ヲ以テ制定セラレ候軍刀ハ儀禮的ノモノニアラズ專ラ實用ヲ旨トスルモノナレバ刀身ノ製作、撰定ハ勿論之ガ
附属金具、外装ノ拵等ハ極メテ細心ノ注意ヲ必要トスルニ付之ガ製作ニ關シテハ同令ニ依ルノ外別紙製作細目ニ準據スル様部下關係
者一般ニ周知方取計ハレ度

(別紙)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

一般
一、刀身ノ姿ニ應ジ適宜反リヲ附ス直刀ヲ用ヒザルコト
二、刀身ノ長サ反リ恰好身幅重ネノ廣狭厚薄ニ應ジ適宜鐔及切羽ノ徑竝ニ厚サ加減シ釣合ヲ適良ナラシムルコト
三、柄、鞘下地ノ朴木ハ充分乾燥シ樹脂ヲ除キ些少タリトモ鹽分ヲ含マザルコト尚髄心附近、白肌、蟲喰、節、朽損等シタル部分ハ
  之ヲ完全ニ取去コト
四、下地ノ掻入レハ必ズ一口毎ニ行ヒ目釘孔、鯉口、ハバキ口、塵落等ニ注意シ製作シ柄下地ハ特ニ念ヲ入ルルコト
五、金物ハ黄銅ノ打物トシ厚サハ四厘乃至五厘トスルコト
六、足ノ位置ハ太刀ノ長サニヨリ斟酌スルコト

刀身
一、皇國古来ノ太刀又ハ打刀ノ身若ハ皇國獨特ノ鍛錬法ニ據レル新身ヲ用フルコト、洋鋼打延ノモノノ如キハ適當ナラズ
二、刀身ノ長サハ佩用者ノ身長及修得セル劍術流派ニヨリ定ムベキモノナルモ一尺七寸以上ヲ可トス
三、ハバキハ太刀ハバキトシ金、銀、銅又ハ金銀著セノ何レニテモ差支ナク鑢目等モ随意ノコト


 一、柄ノ長サハ最短五寸五分トスルコト
 二、柄ノ形状ハ立鼓、柄頭ニテ一分落トスルヲ原則トスルモ修得セル劍術流派ニ定メラレタルモノトスルヲ妨ゲズ
 三、冑金ノ刃方棟方ニハ鍍金ノ黄銅製笠鋲ヲ打ツコト
 四、猿手用鵐目ハ櫻花トスルコト
 五、柄鮫ハ必ズ沙皮ヲ用ヒ和鮫其ノ他ノ疑ヒ物ヲ用ヒザルコト
 六、柄沙皮ハ必ズ一枚を用ヒ冑金ノ上縁ニ及ビ佩裏ニテ突合セ著セトス但シ前重著セトスルモ差支ナキコト
 七、著セタル沙皮ノ刃方棟方ハ巻柄ノ必要以上ニ磨リ取ラザルコト
 八、沙皮ハ瀬〆漆ニテ一囘以上下塗シ二囘以上瀬〆ニ松煙ヲ混ゼ若ハ箔下漆ヲ塗ルコト
 九、柄絲ハ濃茶色絹二ツモロ三十三玉四間飛常組トスルコト
 十、巻方ハ平巻、冑金下際、棟方ニテ、小間結トシ餘端ハ絲下ニ挿込ムコト絲幅二分但シ平巻ハ併菱トスルモ差支ナシ
十一、目貫ハ金又ハ銅鍍金トシ輪ニ櫻花紋三雙、櫻花肉合彫地七子(魚子)トス家紋ヲ用フル場合ハ之ニ準ズルコト
十二、縁ハ引小縁ニ枝桜、共金ノ天上金ヲ鑞著スルコト
十三、猿手ハ熏韋ヲ巻込ミ鞭結トス緒ナラバ八ツ折トシ鞭結トスルコト
十四、手貫緒ハ絹糸二ツモロ五十四玉高麗打長サニ尺五寸、總ハ縒總長サ二寸二分、扱ヲ入ル扱ハ網代編相当ノ力ニテ引クモ抜ケザ
   ルコト
十五、手貫緒ハ猿手ニ引懸テ總ノ上ニテ一ト結ビスルコト


一、鞘ノ長サハ一尺八寸以上トスルコト
二、革ハ牛又ハ馬革ヲ用ヒ棟方ニテ重ネ合セ箔下漆ニテ黒色トスルコト
三、鮫皮ヲ用フルモノハ藍鮫トシ佩裏ニテ突合スコトヲ得但シ二枚以上ヲ継ギ合ストキハ必ズ足又ハ柏葉下ニテ行ヒ、他ニテ継ガザ
  ルコト  
四、鯉口、引小縁共金ヲ鑞著スルコト
五、足金物ハ黄銅製鍍金、棟方ニテ鑞著シ鐶足ハ甲羅ノ裏ニテ絡繰留トス鐶ハ徑八分五厘鐶徑一分二厘食合セテ宜シキモ必ズ鑞著
   ノコト、座金下ハ裏菊、上方ハ小刻トスルコト
六、責金ノ位置ハ石突ヨリ鞘ノ長サノ約五分ノ一トス
七、石突ハ冑金ト同様刄方棟方ニハ笠鋲ヲ打ツコト

臨時処置

 大東亜戦に突入し、物資不足の為に以下の通達が出された。使用金具類の材質制限が始まっている。

 軍刀、長劔、短劔及劔帶等ノ金具ニ關スル件 官房軍第五九六號                  昭和十八年五月二十五日
                                                   海軍省副官
 各廰長殿
 軍刀、長劔、短劔及劔帶等ノ金具ニ關スル件通牒
 資材ノ現状ニ鑑ミ首題ノ件自今當分ノ間銅ノ試用ヲ極限セル資材ヲ以テ作製ノコトニ定メラレ候條了知相成度


筆者注) 昭和18年過ぎに、物資不足から金具の銅の使用を制限している。やがて、短剣、軍刀外装の略式化につながって行った。


(海軍刀製作細目:K.森田氏ご協力 戦時処置: 森良雄著「元帥刀と軍刀」より)





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