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朝日新聞昭和16年1月9日(木曜)第7面報道 |
軍刀も純日本式 東条陸相は八日昭和の“葉隠論語”ともいうべき『戦陣訓』を全軍に示達して昭和武 人の人格完成を諄々(じゅんじゅん)と説いたが、今度は軍人の魂とも言うべき軍刀が従来 の西洋臭をかなぐり捨てて日本古来の打刀式に改められようとしている。 陸軍の軍刀は、文官がフランスのエペーを採用したのに対してドイツのサーベルを模 倣し、日露戦争の時既に幾多の短所があげられ改正が叫ばれたが、それが実現したの は昭和九年のこと、満州、上海両事変体験を生かしてサーベル式から一躍鎌倉末期の 太刀型に改正された。 然し鎌倉末期の太刀は足利将軍が好みにまかせて造った謂はゞ儀礼刀でまだ十分に実 戦的とは言えず、今次聖戦の尊い血をもってあがなわれた貴重な体験の結果、今度の 改正に際して戦国時代に盛んに使われた刀を継承した徳川時代の打刀の型式が多分に 採り入れられ、ここに鉄製鞘などに残っていた従来の西洋風を完全に一蹴して純日本 風の軍刀が昭和軍人の腰間を飾る事になる様である。 今度改正されんとする主要点は従来七寸乃至七寸五分であった柄が八寸以上と規定さ れ、然も殆ど(柄の)反りがなくなったこと、柄木は朴が今事変で折れた実例に鑑み、 武士の象徴とも言うべき丈夫な桜木にしたこと、鉄製の鞘が木製になって軽くなり、 しかも修理が野戦でも簡単に出来るようになったこと、柄糸も弱い絹糸の代わりに麻 糸が登場して巻き方も菱形巻から片手一本巻に改められ、真鍮製の透かし鍔が一枚物 の無地の軟鉄製の丸鍔に改められて強度を増した等、何れも外観を度外視して実戦を 主にしているのが改正の眼目だ。 右について、昭和十三年二月から約九ヶ月間蓮沼部隊に軍属として従軍、戦線で軍刀 の修理にあたった日本刀の研究家成瀬関次氏は語る。 今度の改正は何れも戦国時代の人々の研究とぴったり一致しているので面白いと思っ ております。柄を八寸以上にしたことは居合術の祖である林崎甚助が出羽の館岡の林 崎明神に百日参籠して祈願の結果、満願の日に霊感を得て製作した奇怪卍剣の柄が八 寸であったことに符号し、片手一本巻とは通称勘助巻と言って武田信玄の軍師、山本 勘助が陣中で自ら考案したと伝えられる巻き方で、この方法によると従来の菱形巻が 巻くのに半日や一日かかったのが僅か三十分位で出来ます。 柄糸も麻糸の方が丈夫で、それも眞田紐が一番使ってみて成績が良かったです。 |
写真説明(上) 新軍刀外装、(下) 刀身 東京日日新聞(後の毎日新聞) 昭和16年1月17日(金曜)第5面報道 |
陸軍では今事変以来、実戦における軍刀について種々の経験に鑑み軍刀を飽くまで戦闘を主と した武器とすべく新軍刀の製作に関し第一線の実戦報告並びに刀剣家卅余名による現地修理班 の意見報告を基礎として研究していたが、この程一案を得たのでこれを製作、第一線将兵に試 用させることに決定した。将校、准士官の腰間に新威力を発揮することになった新軍刀は折れ ず、曲がらず、刃毀れせず、切れ味良好を主眼として、人を対象とするほか近代戦の白兵戦闘 において遭遇すべき銃槍、鉄兜、防寒被服類等に対する斬撃刺突の効果を考慮し、単一成分の 洋刀の遠く及ばぬ和鋼(軟鉄、硬鋼)を使用、全国著名刀匠に委嘱、その試作品につき実用価値 を確かめ、更に小倉陸軍造兵廠で試作、その鍛錬法も古来の手作業に更に機械力をも利用した もので年々各刀匠の手によって約三千振りを作らせ偕行社、軍人会館等で頒ち注文にも応ずる ことになり、既に実施中である。 新軍刀の外観は鎬造り、華表そりの豪壮なもので古来の相州ものに近い。 新軍刀の特徴 一、切先、先身巾、地肉半径並びに反りの調和を計り、小鎬と松葉角交点の重ねを特に厚く し、打ちおろしの張姿とした 一、刃こぼれの場合、再研磨により実用に供し得る程度とし、錵の状態は刃こぼれ及び刀身の 折損防止のため刃縁は匂い深く小錵絡みとした 一、刃渡りは二尺一寸、二尺二寸、二尺三寸の三種、重量は百九十五匁乃至二百廿五匁、 また外装の型式は佩用、使用に便なる様「打刀造り」とし 一、目釘穴を中心とする柄の折損、鍔元の緩み、発條の耗損、佩鐶の摩損を防止 一、中柄、頭金の形状、目貫の位置、柄糸の巻方、鍔の形状等も操用に便利にし 一、鞘は朴の木に生皮をかぶせ漆塗り、自動車に轢かせても破損せぬ強靱性を持ち浸水による 錆びを防止する 一、各部分の金具は従来の黄銅にかえ軟鋼に銅鍍金を施す 新軍刀実験結果 陸軍戸山学校教官森永少佐等、同校助教授等の実験の結果は左の如く優秀なものである ▲巻藁斬り=一昼夜水に浸した二俵分の藁束を斬る時は手応え軽く斬味良好、平均斬込量百七十 パーセント(人間胴体と略同)、刀身異常なし ▲青竹斬り=径三〇-三五ミリの青竹を一俵の藁の心に入れて一昼夜水に浸したものを垂直に立て て斬る時手応え軽く、刀身異常なし ▲鉄兜斬り=水に浸した綿布で覆った鉄兜を斬る時はその一部長さ廿ミリを斬込み(従来のは概し て斬れぬ)僅かの刃まくれを生じたのみでその他異常なし 尚、この新軍刀は試用の効果如何(いかん)によって将来制式に採用される筈。 |
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